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(2000年3月21日付)
十一月七日に行われるアメリカの“ミレニアム大統領選挙”に向けて、民主、共和 両党がそれぞれ熾烈なペースで進めてきた予備選挙は、三月七日の“スーパー・チュ ーズデー”ではやばやと大勢が決まった。クリントン政治を継承しようと意気込むゴ ア副大統領が民主党を、父子二代の大統領の座をねらうブッシュ・テキサス州知事が 共和党をそれぞれ制し、九月からの選挙戦本番で激突する。
春の予備選を沸かしたのは、何といっても共和党のマケイン上院議員の“たった一 人の反乱”だった。ベトナム戦争で五年半の過酷な捕虜生活を送った軍人英雄のマケ イン候補は、不倫や偽証問題でゆれたクリントン政治とは対照的に、素朴で新鮮な愛 国心を国民の目に焼き付けるとともに、既成権益がモノをいうワシントン政治の腐敗 に抗議し、政党への不透明な企業献金の規制を叫んで全米の共感をえた。
最後には、ブッシュ候補の莫大(ばくだい)な選挙資金、父親の“七光り”を利用 しての党全国組織の結束などの前に力つきて屈したものの、さわやかな「マケイン旋 風」の後味が残った。民主党の側でも、党の主流や組織労働などとは一線を画し、社 会保障体制の大改革や銃の規制などで独自の運動を展開したブラドリー元上院議員 が、既成政治にあきたらない市民層を引きつけてゴア候補をタジタジとさせた。
英誌エコノミストの調査によると、今年の予備選の段階で、アメリカには新しい 「中道派」が生まれてきたという。八〇年代と九〇年代前半までは、保守的な社会意 識を持ち、労組に固く組み込まれた肉体労働者が無所属あるいは浮動票の主力になっ ていた。しかし、最近の無党派層は、学校での宗教教育や中絶問題では保守派の主張 に反対し、少数民族問題でもより開放的になっている。職種も肉体労働より情報産業 が多いという。
新しい中道派は、政治勢力としてはまだ少数派である。今回はマケイン候補も、共 和党右派の「キリスト教徒連合」を足場に激しいネガティブ・キャンペーン(中傷攻 撃作戦)を展開したブッシュ候補に押し切られる形になった。民主党のブラドリー候 補も、無党派層の支持を受けて善戦したが、政権与党の組織力を背景にしたゴア副大 統領に力負けした。
だが、秋の本番選挙戦では、ブッシュ、ゴアの両候補とも、無党派層の支持なしに は勝利が期待できない。その無党派層は、マケイン、ブラドリー両候補の撤退で行き 場を失い、秋の選挙を白けた目で眺めているといわれ、政治不信が増大する懸念もあ る。
今年春の予備選で、アリゾナ州民主党が、『歴史を作ろう』のキャッチフレーズと ともに実施した電子投票が大成功をおさめ、世界の注目を集めた。投票所では、用紙 に記入する従来通りの投票とともに、場内に設置されたパソコンで投票することもで きる。もちろん、世界のどこで投票してもよい。おかげで四年前の予備選の四倍の投 票率になった。
投票だけではない。政治腐敗の元凶といわれてきた“金権選挙”も、インターネッ トの活用で様変わりすることが期待される。
アメリカでは現在成人の五六%がインターネットを利用している。膨大な費用のか かるテレビの政見広告やダイレクトメールの代わりに、インターネットで“電子選挙 戦”を行えば、安上がりで効果も抜群だ。長年の夢だった政治改革の一つ、金のかか らない選挙が実現する見通しが出てきた。
ネット選挙の効果はまだある。マケイン候補は千六百万ドルの政治献金を獲得した が、うち四分の一がインターネットを通じた献金だった。また、民主党のゴア候補 (副大統領)は、電子メールを多用して、予備選を支援してくれるボランティアをあ つめるのに成功した。ネット選挙が、二十一世紀型の“草の根選挙”になる可能性が 出てきた。(国際問題評論家)