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(2000年2月15日付)
クリントン米大統領が、二期八年にわたる任期の“総決算”として、一月二十七日 に議会で読み上げた一般教書は、冷戦後の世界で、経済、軍事、科学技術のどれをと っても“ひとり勝ち”の超大国アメリカがあげた“雄叫び”のような内容だった。
「米国は歴史上最も力強い状態にある」と宣言したクリントン大統領は、中産階級 への配慮に重点を置いた野心的な「二十一世紀のアメリカ革命」を提唱した。九十分 の“独演会”に、なんと百二十八回もの拍手が起き、議場が揺れた。
第一は、昨年クリントン大統領の不倫疑惑が引き起こした、政治と政治家に対する 不信感が国民の間に完全に根を下ろしたことだ。第二には、空前の好景気が、よく見 るとまだら模様を描いており、貧富の格差がむしろ拡大している状況がある。そして 第三が、米国人の視野から、国際社会の創造的建設へのリーダーシップが見事なまで にかき消えたことがあげられる。
第一点の政治不信は、本格化し始めた大統領選挙戦を見る有権者の目にクッキリと 現れている。子どもたちに聞かれても、その目を見つめて説明できない、国家元首の “セックス・スキャンダル”という屈辱感を噛みしめた国民は、クリントンの次の大 統領を選ぶ判断基準には、政治手腕よりもまず人格を、と決意している。
経済でも、水面下に問題がある。「予算と政策の優先順位に関する委員会」が発表 した統計によると、年収一万ドル(約百八万円)以下の貧困に苦しむ家族の年収は三 年前より低下した。また九つの州では、上から二〇%までの富裕層の収入は、下から 二〇%までの貧困層の実に十一倍に達することが分かった。未曾有の繁栄の中で、貧 富の格差が不気味に拡大しているのである。
クリントン教書で人目をひくのは、国際社会への関心の低さである。中国やロシア の民主化への支援、中国の世界貿易機関(WTO)加盟期待、朝鮮民主主義人民共和 国(北朝鮮)の核・ミサイル開発の抑制、さらにはIT(情報技術)革命の進展に伴 うコンピューター・テロ防止などが今後の課題としてあげられたが、これらは単なる “外交カタログ”に過ぎず、早期達成の見込みはほとんどない。
しかし、米議会に根強い“新孤立主義”、つまりは一国繁栄主義の風潮に圧倒さ れ、今回の教書では「米国自身の国益を基準に介入の度合いを決める」という腰のひ けた姿勢を打ち出すのがやっとだった。
米国の国益という狭い範囲なので、ロシアを刺激するチェチェンや、中国の不興を 買うチベットについては、介入どころか批判も手控えることになりかねない。また、 東ティモールやアフリカなど、米国の軍事、外交、経済的利害関係が明確でない地域 への介入は見送られる可能性が強い。
それに、一般教書のどこを見ても“国連”の名がない。五十五年前、新たな世界的 紛争が起きるのを防ぐためにルーズベルト大統領が米国の威信をかけて創設した国連 は、中小の開発途上国の互助機関として、米議会から「厄介者」視されている。分担 金の滞納は近年は常習犯で、創設いらい米国が二五%を負担してきた通常予算の分担 率を今年から二〇%に一方的に引き下げるという(日本は今年から二〇・五七三%で 世界一)。
だが、核拡散防止、環境保護、貧困対策、人口抑制、さらには地域紛争を抑制する 平和維持活動(PKO)など、国連による活動で米国が間接的にどれほど大きな利益 を受けたかは計り知れない。クリントン大統領は共和党の保守派が牛耳る米議会に、 辛抱強い説得をして、国連活動への支持、協力に向かわせなかったことが、現在の冷 淡な国連への姿勢を生んだ。国際連盟を先頭にたって組織しながら米国が加盟せず、 第二次世界大戦を招いた一九二〇年代の失敗を繰り返すのを懸念する声が米国内外で 聞かれ始めた。
史上最強国家と自負する米国だが、意外にもろい国際的基盤に立っているのをまだ 気づいていないようである。(国際問題評論家)