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タイトル画:検証:構造改革報道

検証:構造改革報道 高橋文利

【8】


税制改革論議がスタート
財源対策でない大改革を

(2002年1月29日付)


 小泉首相が「構造改革の大黒柱」と位置づける税制改革論議が新年とともにスタートした。通常は年末に、翌年度の予算編成と合わせて開いていた政府税制調査会を1月17日に招集し、2003年度からの抜本的な新税制づくりを指示したからだ。

 ▼「船頭多くして」の危惧

 首相自らが議長を務める経済財政諮問会議も2002年度から5年間の構造改革の道筋を示す中期経済財政展望を決定し、そのなかで21世紀にふさわしい税制改革の必要性を強調している。自民党税制調査会も影響力と存在意義を誇示する狙いで議論を始める構えだ。

 税制改革をめぐる論議は、政府と自民党の税調及び経済財政諮問会議の3者による綱引きという構図のなかで始まった。早くも「船頭多くして」の危惧を持つ船出だが、奇妙なことにメディアが一致して論議の最大の焦点にあげているのが所得税の課税最低限の引き下げである。

 所得税の課税最低限は夫婦と子供二人の標準的なサラリーマン世帯の場合、現在は約384万円で、年収がこれより少ないと所得税を納める必要がない。主要国との比較でも、課税最低限がこんなに高い国はなく、財務省によると、働く人の4人に1人は所得税を払っておらず、残りの層に税負担が偏っているという。

 このため「課税最低限の引き下げは当然のテーマと考える」(朝日1月17日付社説)という論調が圧倒的である。

 だが、ちょっと待ってほしい。課税最低限は年収から差し引くことのできる各種の所得控除の総額を示しているわけだから、引き下げは各控除を廃止ないし圧縮することを意味する。どの控除に手をつけるかで、負担の増える層が変わってくるのだ。

 ▼下手をすると「金持ち優遇」に

 各控除を一律に圧縮するような方法では、これまで税を納めていない低所得層だけでなく、中・高所得層の税負担も重くなる仕組みである。そこで、控除圧縮による課税ベースの拡大に合わせて、現在4段階の所得税の累進税率の平準化あるいは所得税・住民税の最高税率(現行50%)の引き下げをセットで実施すべきだという意見が出てくる。「勤労意欲を引き出す税制」がこれだが、下手をすると「金持ち優遇」になりかねない。

 また赤字を理由に法人税や法人事業税(地方税)を納めていない企業が7割を占めることから「行政サービスの対価という性格の強い法人事業税には、外形標準課税を導入し、赤字法人にも少額の課税を求める必要がある」(読売1月18日付社説)という主張もうなずける。少額というのがみそだが、これには景気対策に逆行するという反論が出るだろう。

 このように、税制にはあちらを立てればこちらが立たずという面があり、盆栽の枝ぶりを直すようなわけにはいかない。「公平・中立・簡素」というのが常套句だが、実際には容易な作業ではない。

 竹中経済財政担当相はテレビ討論などでも「税を税だけで議論するのではなく、経済全体の枠組みのなかでシャウプ税制以来の大改革に」と意気込んでいる。地方への税源移譲などを実現するためにも、この姿勢はメディアとしても支援すべきだろう。

 ただ、財政再建を急ぎたい財務省ペースに引き込まれないよう監視する必要がある。財源対策に主眼を置いた税制改革が経済の活性化に役立たないことは、過去の失敗例で実証済みである。今度こそ、日本経済を元気づける税制を、ぜひ実現してもらいたいものだ。

(立命館大学教授)