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米国ジャーナリズム時評

【50】

テロ警戒レベル引き上げの顛末

(2004年8月10日付)

 大統領選を3カ月後に控えた8月の最初の週末、国土安全保障省は米国東部数都市のテロ攻撃に対する警戒レベルを引き上げることを発表した。具体的なターゲットを名指しした異例の警告を受けて、民主党全国大会後、国内経済を中心とした問題に移りつつあった大統領選の論点は、一気に国家安全保障問題へと引き戻された。

 しかし、3日付のニューヨーク・タイムズ紙が、警告は3、4年前の情報に基づくものであり、そのテロ計画が現在も進められているという具体的な証拠はないと報道するやいなや、警戒レベルの引き上げの裏には政治的思惑があるのではないかという非難が噴出した。

 テロ警報発令の政治性は、かねてから噂されてきた。テロ警戒警報レベルは時折引き上げられるものの、情報の機密性を理由に、情報源やテロ攻撃に関する具体的な情報が発表されないため、ブッシュ政権が国民の不安をあおり、テロ警戒下で支持を集めるために定期的にテロ警戒レベルを高めているのではないかという論議はそこかしこで囁かれてきた。

 低下しつつあるブッシュ政権の人気も、ことテロに対する戦いの分野に及ぶと現在でも高い支持率を示すため、この論はリベラル派の間で根強い支持を得ている。

 この論の真偽のほどを検証するのは不可能に近いが、今回の騒ぎが露呈したのは、今年の大統領選が、候補の政策や主張ではなく、テロ攻撃の可能性に対する人々の恐怖感など、候補者の力量外の要因に大きく左右されているという事実である。

 例えば、テロ警戒令がでれば世論は共和党支持に傾くが、イラクで一度、事が起これば、政権への非難も高まる。裏を返せばブッシュ大統領も、ケリー民主党大統領候補も、民心をひきつけるような政策を打ち出せていないということに他ならない。どちらかにより形勢不利な出来事が起これば、他方が浮上するというシーソーゲームの中、大統領選の行方はますます不透明さを高めている。

 (椎名亜由子・在米ジャーナリスト)