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ワシントン・ポスト紙の敏腕記者 周到な取材で政権の内幕を暴露 |
(2004年5月11日付)
4月20日、ボブ・ウッドワード記者による『Plan of Attack(攻撃計画)』が書店に並んだ。
ウッドワードといえば、同僚記者と共にウォーターゲート事件を明るみに出した敏腕記者で、非協力的な政治家でも最後は手なずけて口を割らせてしまうインタビュー手腕は天才的とも言われる。
彼が、イラク侵攻にいたるまでの米政権内の意思決定経過について、かなりスキャンダラスな事実まで書いたらしいという噂は、2カ月ほど前からワシントンの人間をやきもきさせていたが、本人も出版社側も本の内容については固く口を閉ざし、出版直前まで、その内容は厳重に秘密に伏された。
本書では、2001年9月11日の同時多発テロのわずか72日後の11月21日には対イラクの戦争計画立案が指示されていたこと、2002年7月にはアフガン戦争用の軍事費の中から7億ドルがイラク戦争準備のために振り向けられていたこと、対イラク開戦の決定に際してパウエル国務長官は蚊帳の外に置かれていたこと、選挙前に石油価格を下げるという密約がサウジとの間で交わされたということなど、衝撃的な事実がいくつも明らかにされた。
ブッシュ政権の内部事情については、以前にも何冊もの本が出版されている。ポール・オニール前財務長官が『The Price of Loyalty(「忠誠の代償」の意)』で内情を吐露した際には、ブッシュ政権は無視を決め込んだかと思いきや、リチャード・クラーク元テロ対策担当特別補佐官が『Against All Enemies(「すべての敵に対して」の意)』で、政権がテロの兆候を見逃したこと、イラク戦争に性急に突入したことを暴露した際には、こちらが唖然とするほどの猛反撃に出た。
しかし、ウッドワードの『Plan of Attack』は、これだけ政権にとって不都合な事実が次々と暴露されたにもかかわらず、大統領のホームページ上で推薦書リストに紹介すらされている。そもそもブッシュ大統領がジャーナリストに3時間半ものインタビューを承諾したということ自体、異例中の異例である。秘密は「ウッドワード・マジック」にあるようだ。
ウッドワードのワシントンにおける人脈の広さはよく知られるところである。インタビューを拒否すれば、政権に批判的な人物からの情報が中心となることを、政権が危惧したであろうことは疑いの余地がない。実際、嫌がるチェイニー副大統領、ラムズフェルド国防長官にウッドワードとのインタビューを受け入れるよう、強く勧めたのはブッシュ大統領であったという。
もう一点、特筆すべきは、インタビュー申し込みに先立つウッドワードの下調べ、準備の入念さである。ブッシュ大統領へのインタビュー申し込みに際して、調査結果に基づく主要点を提示した21ページにもわたるメモを提出している。一種、観念して、インタビューを反論の機会に利用しようという意図も政権側にはあったかもしれない。
ジャーナリズム的にはウッドワードの本は、新聞と本の逆転現象という新しい兆候を明らかにした。以前は新聞がニュースを発表し、その後、かなりの時間を経てから本がニュースの歴史的検証を行うという流れであったのが、いまや本がニュースをすっぱ抜き、新聞が本、そのものをニュースとして扱うという新現象が起こっている。
政権の内幕ものは今までにも数多く出版されてきたというものの、ブッシュ政権においては在任中から、内情暴露ものが何冊も出版されているという点も特異である。
ウッドワードのようなジャーナリストによる本が、新聞と本との逆転現象を印象づけたという事実は、新たな問題をジャーナリズムに投げかけてもいる。本来、ジャーナリストは、調査の結果、明らかになった事実を、公益のために人々に、いち早く知らせるという責務を担う。
ウッドワードは所属するワシントン・ポスト紙の紙上で一報を流すことなく、出版のために事実を一定期間伏せるという選択を行った。ウッドワードはジャーナリストであるのか、それとも著述業者であるのか。
この疑問は、本書に対する一部の批判と重なるところがある。本の持ち味である分析力に欠け、事実の羅列に終始したために冗長な新聞記事のようであるという批判である。
しかし、良くも悪くも、事実をしつこいまでに重ねて主観を述べないのはウッドワードという記者の以前からの手法である。現政権に関する批判的な情報と事実を、これほどまで集められる記者は他にいないことは確かである。また、選挙前に、国民にできるだけの事実を知らせることの意味の大きさも加味されるべきであろう。
(在米ジャーナリスト)
しいな・あゆこ 上智大学新聞学科修士課程、ミネソタ大学ジャーナリズム学科修士課程修了。研究テーマは国際コミュニケーション論と、主にインドネシア、東南アジアにおける言論の自由。現在はニューヨークに在住し、リサーチャーとして活動する。