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(2003年11月25日付)
今年4月、イラクで捕虜となった後、劇的な救出劇がテレビを通じて伝えられたジェシカ・リンチ上等兵がイラクでの体験をつづった本をこのほど出版した。出版にあわせてまず大手テレビ・ネットワークのABCが90分にわたるロングインタビューを、NBCでは彼女の救出劇を扱ったドラマとインタビュー、TIME誌ではカバーにリンチさんの写真を掲げての大特集と、戦時下の米国を沸かせた19歳の女性兵士が久しぶりにメディアのあちこちに登場した。
しかし今回、本やインタビューの内容から明らかにされた事実は、4月に美談として伝えられたものとはやや趣が異なった。
当初、報道されていたのは彼女の所属する補給部隊がイラク軍に待ち伏せ攻撃を受け、勇敢に応戦したものの捕虜となりイラク兵の警備する病院で虐待を受けていた彼女を、米軍が劇的な救出に成功したという筋書きであった。
しかし実際には虐待を受けた事実は一切なく、イラク人医師たちによる可能な限りの治療が施され、米軍突入時には病院内にはイラク兵士の影すらなかったことが彼女自身の言葉によって明らかにされた。
救出があたかもイラク軍による抵抗を受けたかのようにビデオが撮られていることについて質問されると、「困惑した。真実ではないと知っているから」と述べ、救出を軍が利用し、カメラに収めたのは誤りだ、「軍は私を利用した」と語った。
勇敢に応戦していたはずの彼女は実際には銃に砂が詰まり発砲すらできず、戦車内で「膝をついて祈っていた」とも明かした。自分はメディアが伝えたような「英雄」ではなく、「サバイバー(生き残り)」だと語り、戦場は本当に怖かったと率直に述べる彼女は、国防省が脚色しようとした勇敢な米国兵士の姿とは異なる、ごく普通の19歳の女性兵士であった。
小さな自分の村から外の世界に出るには他の方法がなかったから入隊を決めたと語る、面影にも話し方にも幼さの残るリンチ上等兵に、似たような境遇から入隊し、イラクに駐留している数多くの米国兵士を重ね合わせて痛みを感じざるを得なかった。
(椎名亜由子・在米ジャーナリスト)