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米国ジャーナリズム時評

【32】

金融記者の問題点を告発する書

(2003年10月28日付)

 ジャーナリズムの中でも専門分野として確立されてからまだ日の浅い金融ジャーナリズム。1990年代後半に金融市場が高騰するとともに米国でも多くのスター金融記者たちが生まれたが、彼らに焦点を当てたのが近ごろ、日本語訳が出版された『フォーチュン テラーズ』である。著者はメディア記者として高い信頼を得ている、ワシントン・ポスト紙のハワード・カーツ氏だ。

 カーツ氏が金融ジャーナリズムに目を向けた理由は、金融専門TV局CNBCのアンカーたちに代表される米国の金融記者たちの特殊性にある。その特殊性は記者の側により一層の注意を要求するものであることを同書は指摘する。

 政治記者の場合、社会にとっての議題を設定することはあってもコメントや分析によって国家政策に即座に影響を及ぼすことはない。それが著名な金融記者ともなると、相場に対する分析や入手した情報を伝えることで株価や相場そのものを動かしてしまう。

 そうした記者たちの背後には敏腕アナリストや花形ファンド・マネジャーといった情報源があるが、彼らはただ客観的な情報を提供するのではない。メディアでその情報が報道されることによって得られる利益を考慮した思惑がそこには働いているのだ。

 また、カーツ氏はジャーナリストは本来、情報源の信頼性、責任を厳しく追及するのが常であるのに、金融ジャーナリズムの世界ではそれが非常に緩やかであることを指摘する。その結果、情報源側のなんらかの意図を持って流された噂や憶測に過ぎない情報までもがメディアを通して流され、それが虚偽であったとしても市場に影響を及ぼすことになる。

 報道が現実に変化を与えるという奇妙な現象が起こる、金融ジャーナリズムの世界――。ここでは記者はもはやアウトサイダーではなく、市場を動かす「プレーヤー」の一人なのである。新興するジャーナリズムに潜む落とし穴を精緻に見つめると同時に、NY株式市場狂乱の時代をドキュメントした読ませる一作だ。

 (椎名亜由子・在米ジャーナリスト)