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米国ジャーナリズム時評

【31】

追悼 E・サイード教授

(2003年10月15日付)

 9月25日、米コロンビア大学比較文学の教授で、政治思想家としても知られるエドワード・サイード氏が死去した。

 英国統治下におかれたパレスチナの一部であったエルサレムで代々キリスト教の一家に生まれ、その後イスラエル建国に伴いエジプト、そして米国へと移住した。

 こうした出自も伴い、アラブ世界、米国の双方を真に理解する貴重な学者としてアラブ、イスラム世界に対する西側諸国の無理解を非難し、国を追われたパレスチナ人の苦悩を代弁してきたが、親イスラエル派の多い米国ではしばしば反ユダヤ主義、テロ支持者といった不本意な攻撃も受けてきた。

 確かにサイード氏はイスラエルの外国人排他主義、また米国のイスラエル支持を厳しく非難してきたが、同時にパレスチナの不寛容を糾弾することも怠らず、パレスチナ独自の地を主張するのではなく、アラブ人とユダヤ人が平等の権利を持って共生する一つの国家の創設を唱導してきたことを忘れてはならない。

 サイード氏の功績を語る際に欠くことができないのは、77年に発表された著書『オリエンタリズム』であろう。

 西側諸国における東洋の研究は支配者側からの統治されるべき存在に対するものであり、植民地支配の論理であるというのが同書全体に流れる考え方である。支配者の意識こそがオリエンタリズムであり、その認識なしには現在の西側諸国と東洋の間の問題を克服することはできないと説く。

 9月11日の米国に対するテロ攻撃勃発の後には英国の新聞・オブザーバー紙に寄稿し、「どんな理由も、どんな神も、どんな抽象的な考え方も、無実の人の大量虐殺を正当化しはしない」とテロ行為を非難した。これは米国に対するテロリストへの非難であると同時に、米国の覇権主義に対する非難でもある。

 互いに対する不寛容は相互に増殖し続けるだけであることを常に警告してきたサイード氏。テロへの報復をテロを持ってして行う愚の連鎖反応を断ち切る目処すら立たない現在にこそ必要であったサイード氏の死は、世界にとって計り知ることのできない損失である。

 (椎名亜由子・在米ジャーナリスト)