![]()
(2003年6月24日付)
記者による捏造記事の数々が発覚してからおよそ5週間後、ニューヨーク・タイムズ紙のハウエル・レインズ編集主幹とジェラルド・ボイド編集局長が6月6日付で辞任を表明した。辞任を否定してきた同編集主幹らを辞任に追い込んだのは、社会からの批判やプレッシャーというより、社内からの根強い不信に負うところが大きい。
通常、タイムズ紙の記者たちが外部に内部の不満を漏らさないということはメディア内で広く知られる。そのタイムズ紙の記者たちが今回の不祥事の後、レインズ氏による社内告知、社内電子メールをはじめとする内部資料を、インターネット上の政治コラムニストのサイトや他紙などに堰をきったかのように投稿し始めた。
前回、本欄で紹介したワシントン・ポスト紙のカーツ記者が入手した、タイムズ紙のJ・ミラー記者の社内メール漏洩もその一例である。
オンライン・コラムニストの一人、ジム・ロメネスコ氏のサイトは、辞任発表まで連日、「皇帝シーザー」「独裁者」「恐怖とひいきに彩られた編集体制」など、タイムズ紙の記者らからのレインズ主幹に対する批判であふれかえった。
レインズ氏側は、記者たちの仕事量を軽減するために新規雇用を発表したり、オンブズマンの任命を検討したり、批判をなだめようと必死だったが、極度に権力が中央集権化されたレインズ主幹の編集体制に対して一気に噴き出た不満が沈静化することはついになかった。
レインズ主幹の編集者としての手腕そのものが劣っていたと考える人間は多くないはずである。編集主幹就任直後に遭遇した同時多発テロ時の報道は、人々の視点に立った報道、シビック・ジャーナリズムとも呼べる素晴らしいもので、ピュリツァー賞で7部門を制覇、同主幹の指揮能力の高さを垣間見せた。
しかし、読者の視点に立とうという努力を行ったはずの編集主幹が、記者の立場に立って物を考えられなかったというのは大きな皮肉だ。
(椎名亜由子・在米ジャーナリスト)