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米国ジャーナリズム時評

【20=ワイド版】

第87回ピュリツァー賞に思う

(在米ジャーナリスト・椎名亜由子)

(2003年4月22日付)


権力者に語りかける「弱者のための拡声器」

論評部門のワシントン・ポスト紙キング記者に称賛の声



同時テロ関連が多数受賞の昨年とは異なる趣

 ジャーナリズム、文学および音楽の優れた業績に対して贈られるピュリツァー賞の発表が4月7日に行われた。公共利益に貢献する優れた報道活動に対して贈られ、報道分野の中でも最高の栄誉となる公共奉仕部門では、米国のカトリック教会神父による性的虐待を明るみにだしたボストン・グローブ紙が受賞した。

 ボストン地域の神父による性的虐待に関する同紙の報道に端を発したスキャンダルは国際的な耳目を集め、虐待を行った神父への対策やより厳密な規則の適用へとローマ法王庁を動かすにいたった。

 他にも昨年全米で相次いだエンロン社、ワールド・コム社などの大手企業をめぐるコーポレート・スキャンダルの問題点を詳しく報じ、解説記事部門で受賞したウォールストリート・ジャーナル紙、死刑制度に異議を唱えて論説部門で受賞したシカゴ・トリビューン紙など、受賞対象となった報道を見ると昨年1年間に全米を揺るがした事件の数々が改めて思い起こさせられる。

 政治、経済、文化と各受賞対象が扱った話題は多岐に亘り、多くの部門の受賞を同時多発テロ関連の報道が占めた昨年のピュリツァー賞とは異なった趣を呈している。

 報道分野の全14部門のうち、最多受賞はワシントン・ポスト紙とロサンゼルス・タイムズ紙。W・ポスト紙は国際報道、コラム、評論部門、LAタイムズ紙は国内報道、特集記事、特集写真の各3部門で受賞した。

「凄まじい怒りと英知の記事」―授賞委員会

 東海岸のジャーナリストたちから称賛の声がとりわけ多く聞かれたのは、論評部門でのワシントン・ポスト紙、コルバート・キング記者の受賞である。ピュリツァー賞授賞委員会は、「すさまじい怒りと英知を持って権力者に語りかけるコラム」と同記者のコラムを評した。

 キング記者はW・ポスト紙の論説欄の副編集長を務める傍ら、土曜日の同紙紙上にコラムを執筆している。コラムで取り上げる話題は国内・国際問題からワシントン地域ローカルの話題まで幅広いが、本人自身が「ワシントンの弱者のための拡声器になるべく努めている」(4月8日付ニューヨーク・タイムズ紙)と語るように、ローカルの話題を取り上げた際に一番生き生きとした、同記者ならではの筆致が味わえる。

 より個別の事象に密着する、コラムとしては異色ともいえる詳細な報道スタイルがキング記者のコラムの持ち味だ。そしてコラムの中心にはワシントン地域の弱者、アフリカ系アメリカ人の貧困層が据えられていることが多い。

 同記者がワシントンの警察署長から聞いた統計によると、アフリカ系アメリカ人の人口はワシントンにおける全人口の60%であるのに対し、殺人の被害者の割合では90%を占め、しかもその半数は未解決のまま終わるという(3月30日付ワシントン・ポスト紙上のキング氏コラム)。

 そして、それらの事件に関するメディアの扱いも小さい。裕福な白色人種が殺害された場合でも状況は同じか――キング氏のコラムは問う。

参戦、反戦で分裂する米国世論の背景を洞察

 4月12日に掲載された、ピュリツァー賞受賞後初のコラムでは、ワシントンの公立高校で今月初めに起こった銃による殺人事件と、8年前に同じ高校で起こった同様の殺人事件を比較したうえで、子どもたちが暴力行為を他者の模倣から始めるという事実、それには物理的、精神的に貧しい環境で育てられ、誤った教えを受けている影響があることを訴えている。

 この指摘は反戦、参戦で米国世論が引き裂かれている米国の現状を間近に見ている者には特に心にしみるものがある。今回の対イラク侵攻支持者層は、海外の反戦派が糾弾しているような、血に飢えた米国帝国主義の人たちばかりではない。さらに複雑でそして不幸なことに、そこには反戦派の中心であるリベラルな知識層、比較的裕福で教育を受けた恵まれた層が唱えるきれい事に対する反感が存在している。

 入隊して助成金を得ることでしか高等教育を受ける道がない層や社会的弱者に対する無理解に対する持って行き場のない怒り、そうしたものから生じる何事にも「正しい」反戦派への無条件の反感。両者を隔てるギャップの間には、意見の違い以上の差異が存在する。

 キング記者のコラムは、こうしたギャップの根幹を見据えよと呼びかけている。それを無視しては米国の抱える問題は解決されないのである。

 (椎名亜由子・在米ジャーナリスト)


略歴

 しいな・あゆこ 上智大学新聞学科修士課程、ミネソタ大学ジャーナリズム学科修士課程修了。研究テーマは国際コミュニケーション論と、主にインドネシア、東南アジアにおける言論の自由。現在はニューヨークに在住し、リサーチャーとして活動する傍ら、本紙に「米国ジャーナリズム時評」を連載寄稿中。