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(2006年4月4日付)
目標設定と称賛で成功体験を |
桜咲く季節。学校の新入生ばかりか、多くの新社会人が新しい出発をする。桜が咲き誇るときに人生の門出を飾れるのは素晴らしいことだ。実は、学卒者のほとんどが同じ時期に仕事を始めるのは、国際的にみると珍しい。
多くの日本の新社会人は同じスタートラインに立つ。勉強してきた人もそうでない人も初任給は同じである。再挑戦のチャンスともいえる。日本の会社は、職業経験のない人の採用を基本とするのだから「育てて伸びる」ような人を採用し、学生も「育てて伸ばしてもらえる」ような会社に就職する。日本の会社の多くは、人の可能性に期待し、人を育てることが宿命づけられているといえよう。その意味で、会社の帰趨をかけて、各組織が新人の育成競争に一斉にスタートを切るのが桜の季節であると言ってよい。
今までは他国がうらやむようなこの慣行が、日本の強みを支えてきた。だが、国の調査によると国内企業の従業員に対する教育訓練はこの10年で急減しているという。教育コストを節約するため、対象を選別していると言われるが、もし、次代を担う人材の育成を惜しんでいるなら、自らの財産を放棄していることになる。特に、夢を抱いてきた新人を大きく育てるという思いがあるのか。今一度、組織をかけて確認してみてはどうか。
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K・ブランチャードは、相手の成長段階に応じたリーダーシップ論を構築し、それを世界に伝道している行動科学者である。相手が「これから」という成長段階のときには、指示を明確にして、教示的なリーダーシップスタイルをとることが効果的であるとする。そして、意欲が高まっていけば、共に協働して支援的な働きかけをしていくと同時に、相手の主体性を引き出す努力をしていく。相手の意思を尊重しながら説得的なリーダーシップスタイルにつなげていかなければならない。
このような働きかけによって、新人は実績を積み、やる気や自信をつけていく。能力をつけるには、やる気がなければどうしようもない。あるアメリカの研究によると、組織の働きかけに応えて最も大きく実績を上げるのは、新入社員の1年目であるという。この時期に、成功体験をさらに積ませ、成長への軌道にのせるかどうかがその後を決める。
では具体的にどうすればいいのか。それは1分間でできると説いた本がある。ブランチャードがS・ジョンソンと著した『1分間マネジャー』(ダイヤモンド社=写真)である。これは80年代初頭に出版され、今も世界で売れ続け、何と1200万部に達している大ベストセラーである。
この本は、マネジャーが部下に大きな成功をもたらす3つの秘訣を物語にして説明している。
第1は、1分間の目標設定を共に行うこと。新人に「仕事はうまくやっているか」と聞いて「よく分かりません」と答えられたら失格だが、現実には非常に多い。やるべきことを明確にし、その成果がはっきり分かること。目標は上司と部下が1枚の紙で確認できる簡明なものでなければならない。目標設定とその行動がその人の成長につながっているとすぐ分かると、新人の意欲は倍増する。
第2は1分間の称賛である。よくあるダメなやり方は、任せて放っておいて、できるまで待つという方法だ。これでは最後に失敗する可能性が高い。失敗すれば、誰も思い切ってまた何かをやろうという気持ちにはならない。特に新人には、称賛できる状況をリーダー自らがつくること。そして、少しでもその方向に進んだら称賛して励ますことである。新人が最後の勝利を得るまで、リーダーの責任なのである。
第3は1分間の叱責。望ましくない行動を自分で確認したら、すぐ具体的に注意することである。いけないやり方は、我慢して最後にぶちまけること。叱責の目的は問題行動を取り除くことであって、その人間を守ることだからである。この3つの働きかけを成長段階に合わせて適宜行うのだが、新人に叱責は避けるべきだ。
新人を育てるには、何より成功体験を積ませることである。それにはリーダーが、誰もが勝者になれると確信し、現実に勝者にさせること。その誠実を貫こうとすれば、一人ひとりの成長に合わせてリーダーシップのスタイルを変えていくという発想が生まれてくる。
「人を大切にすること」と「成果をあげること」。組織はどちらかに偏りがちだ。人を育てることによってのみ、2つを両立できる。成長を通じて、人と組織は共生できるのだ。
くりやま・なおき 1960年、大阪市生まれ。創価大学大学院博士後期課程修了。ILO(国際労働機関)本部勤務、日本ILO協会月刊誌「世界の労働」編集長、ジュネーブ大学現代アジア研究所客員教授、ILO国際労働問題研究所訪問研究員を経て、創価大学経営学部教授。著書に『グローバリゼーションと「労働」に関する研究』など。