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(2006年2月7日付)
“秘められた価値”を引き出す文化 |
「勝者がすべてを持っていく」――ビジネスの世界でよく聞かれる言葉である。勝者になるため最優秀の人材を求める「人材戦争」が熾烈化するとも指摘されている。情報が世界に瞬時に行き渡る時代においては、誰でもナンバー1に仕事を頼み、その商品とサービスを買いたいと思うはずだ。ナンバー2でも敗者になる。
でも、本当にそうなのだろうか。最優秀な人のみが生き残っていく時代になったのだろうか。そう考えると何か寒々とした時代風景が見えてくる。そして、そうではないという思いが直感的に沸いてくる。独り勝ちは長続きしない。むしろ、普通の人たちが協力して信じられない成果を出している組織があることを多くの人が知っている。
NHKのテレビ番組「プロジェクトX」が昨年末、6年間の放映を終えた。当初1年の予定で始まったが、世代を超えて大きな反響を呼び、遂に6年間も続いた人気番組となった。
大ヒットとなった翌年、プロジェクトXのデスクの一人に学生と共に話を聞きにいったことがある。番組のテーマは「元気のない日本を励ますこと」であると説明を受けた。
同番組が始まった2000年当時、リストラの嵐が吹くなど日本全体が自信を失っていた。しかし、日本の戦後は多くの困難を乗り越えて素晴らしい成長と成功物語を実現してきたはずだ。
それも無名の人たちが、団結してそれを成し遂げた。窓際族であっても、落ちこぼれであっても、最後はプロジェクトを動かすチームによる驚異の逆転劇で感動のドラマを作ってきた。それを思い出し、「日本人よ、もう一度自信を持とうじゃないか」というメッセージに共感が集まった。
現在、日本経済は力を取り戻す兆しが少し見えてきた。そういう意味でこの番組の使命が終わったと判断されたのかもしれない。しかし、この番組が残したメッセージは、これからも意味を持つ。それは、無名の庶民が偉大な成功を成し遂げてきたという事実と、それを引き出したリーダーの存在である。
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このメッセージは、日本のみならず世界に通用するものだ。米国で「いかにして偉大な会社は、ごく平凡な人間を使って非凡な結果を達成するのか」について、徹底的な事例研究をもとに探求した研究が出版された。
これは名門スタンフォード大学ビジネススクールの教授チャールズ・オライリーとジェフリー・フェファーにより2000年に発表された本(邦訳『隠れた人材価値』翔泳社)である。オライリーによるこのテーマの講義を収録したDVDは、今でも世界で販売され、経営者向けシリーズの中で最も人気の高いものとなっている。
米国で驚異的ともいえる成功をおさめている企業は、最優秀の人を採用することや、優れた戦略を外から導入することを重要としない。それでは一時的に成功しても、やがて他社の追随を許し、競争優位はなくなってしまうからである。
オライリーたちは、成功の鍵となるポイントは企業がもつ「固有の価値」であると指摘する。人をひきつける魅力的な価値こそが、誰にもマネができない優位性を維持させるものである。さらに重要なのは、絵に描いた価値観ではなく、価値の実行である。価値を組織に展開させ、行動につなげる文化を形成することである。
一つの事例は、退潮傾向のアパレル業界で、ひとり驚異的な成長を維持しているメンズウェアハウスである。社長にあたるCEOのジョージ・ジンマーは人の未開発の可能性を重視し、社員を最も大切にする姿勢を貫く。
そして会社の価値を、サービス、チームワーク、共感力、前向き志向の4点に集約し、「人々が自分より偉大なものにつながっていると感じれば、絶対到達できなかったレベルまで人々を高めることができる」と断じる。
この会社は最優秀の社員を解雇したことがある。それは、チームワークを否定し、同僚を利用して自分の成果をあげたからで、会社の価値に合わない人は会社から放逐される。
だからといってこの会社は、問題社員であっても、すぐに解雇しない。長期的に莫大な費用をかけて育成していこうとする。小売業界では、パートタイマーが多用される中、この会社のパート比率は12%に過ぎない。社員を一人の人間として尊重して待遇すること、これが潜在能力を引き出す秘訣だという。
オライリーは、価値を堅持するトップの役割を強調する。成功企業はどこでもトップが「うんざりするほど」会社の価値を繰り返し言う。そして、リーダーの役割は、管理することではなくリードしていくこと、すなわち、社員を押し出すのではなく、引き出すことである。トップリーダーは、権力を手放し、素晴らしい価値によって人の秘められた力を解き放つのである。(創価大学教授)
くりやま・なおき 1960年、大阪市生まれ。創価大学大学院博士後期課程修了。ILO(国際労働機関)本部勤務、日本ILO協会月刊誌「世界の労働」編集長、ジュネーブ大学現代アジア研究所客員教授、ILO国際労働問題研究所訪問研究員を経て、創価大学経営学部教授。著書に『グローバリゼーションと「労働」に関する研究』など。