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成長する人と組織――人的資源の可能性
栗山直樹

(2006年1月10日付)


IQより「感情の知性」重視へ
女性の世紀の幕開け


 性犯罪や虐待など、幼児が犠牲になる事件が頻発している。子供は未来からの使者。その使者を切り捨てれば、未来から報復を受けることは間違いない。

 物事をよく知っているはずの大人が、子供を犠牲にする衝動に暴走してしまう。そこには、弱者を犠牲にしても自己の情動を抑えることのできない醜い大人の姿がある。自制できなければ、社会から倫理は消える。

 また、相手の身になって考えることができない共感力の欠如を窺い知ることができる。共感力がないと自制できない。思いやりも生まれないし、人のためにも行動できない。

 ある事件では、有名大学出身者が加害者だった。大事なのは知能指数(IQ)ではなく、自己をコントロールし、他人に共感できる心の豊かさであると誰もが考えるはずだ。そして、多くの組織が、知識社会になるほど人と人を結ぶ心が豊かな人材が重要だと感じている。

 未来を歓迎できる新しい人材の要件に、「心の知性」があることは間違いない。

     ◆

 ハーバード大学教授だったダニエル・ゴールマンが1995年に著した『感情の知性』(邦訳『EQこころの知能指数』講談社)は、自制や共感力などの重要性を説得力をもって世界に知らしめた。日本ではIQと対比してEQという造語が広く使われているが、原語は「感情の知性」(EI)である。心の一部である感情は、心理学とともに最近の脳・神経学の発展で科学的な研究が進み、その機能と重要性につき、かなり客観的に解明できてきた。

 この著作は、これら最新の研究成果を分かりやすくまとめたもので、アメリカでまたたく間にミリオンセラーになり、日本国内でも100万部近く売れた。そして特に反響が大きかったのが、ビジネス界であった。組織を動かし仕事をする中で、感情の知性の重要性について大きな共感が得られたのだろう。このためゴールマンは、98年に『職場の感情の知性』(邦訳『ビジネスEQ』東洋経済新報社)を発刊した。これらの著作では、考える知性と感じる知性は対立するものではなく、双方のバランスが大事で、感情の知性がなければ才能を十分に活かせないことを証明する。理性と感情は互いに補い合う。そして人の成功にはIQよりも、「感情の知性」が大きく影響するという。

 感情の知性に本来、男女差はない。しかし、男女を取り巻く環境の差が、一般的に女性を感情の知性において優勢にしているという調査が多い。例えば共感力である。

 最初の共感力の差は、女性の方が感情を表現する言語能力が早く発達することから生じる。男性は、むしろ感情を口に出すことがあまり奨励されない。これは対立した場合の反応をみると、分かりやすい。女子が仲間はずれ、陰口など感情が入り組んで表現される攻撃をしかけるのに対し、男子は情緒面であまり深入りせず身体的な反応に走りやすくなる。13歳ごろには、この差が顕著になる。

 女子は親しい小グループを作り、その中で敵対する場面を意図的に避けるようになり、男子はもっと大きな集団の中で競争して育つ。その結果、女子は親密につながった集団の一員であることに誇りを持ち、それを引き裂くものに脅威を感じる。男子は、自主独立を重んじ、束縛するものに「つっぱる」。その結果、女子の方が情緒的なつながりに敏感になり、感情のサインを読み取り、感情を表現する能力に長けていく。

 また、社会において女性が受けてきた不平等な扱いが、奇しくも女性の共感力を高めることにつながった。パワーを持った人は、相手に対して感受性を発揮する義務を感じない。むしろ冷たい態度を保つことが権威を守ることになる。反対にパワーを持たない側は、パワーを持っている人の感情を十分に読み取ることが期待された。結果として、いじめられた側は共感力を身につける。

 しかし、共感力だけでは十分ではない。感受性が強すぎると「うつ」になりやすい。感情は伝染するからだ。統計的には男性よりも女性がうつ病になる人が多いという。だが、悲観する必要はない。数年前に経済雑誌が、「できるヤツほど、うつになる」という大見出しをつけていたが、言い得て妙である。苦悩は財産である。要は、反転する力、別の感情の知性である「希望を持ち続ける力」を発揮するかどうかである。そして、周りに良い影響を与えていく対人能力を身につけていくことである。

 未来につながる今世紀は「女性の世紀」と言われる。女性の時代とは男女ともに輝く時代である。感情の知性は男女平等であり、互いに学びあうことができる。組織には心の知性を学びあえるたくさんの模範となるべき人が必要である。そのような人を英語で「メンター」と呼ぶ。日本語では、聡明な人、信頼のおける助言者、師匠などと訳されている。時代は女性を大事にし活かすことのできる組織と、心の知性にあふれた人材を要請している。 (創価大学教授)

 くりやま・なおき 1960年、大阪市生まれ。創価大学大学院博士後期課程修了。ILO(国際労働機関)本部勤務、日本ILO協会月刊誌「世界の労働」編集長、ジュネーブ大学現代アジア研究所客員教授、ILO国際労働問題研究所訪問研究員を経て、創価大学経営学部教授。著書に『グローバリゼーションと「労働」に関する研究』など。