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成長する人と組織――人的資源の可能性

(2005年10月4日付)


ダイアローグ(対話)の力
自由に本質を探究し続ける大切さ


 人は成長するために学ばなければならない。組織は学ばなければ成長できないどころか、消え去ってしまう。組織の平均寿命は、人の平均寿命よりずっと短いのである。

 ある電機部品を製造するA社があった。A社は新技術で有望な製品を開発した。社長は役員とのディスカッションの末、この製品の生産能力を上げ、販売営業に全力をあげることを決定した。そして数年、この製品の売り上げは大きく伸び、社員は多忙に追われた。やがて環境が変わり、最大の顧客が方針を変えてこの製品を買うことを止めた。A社は大打撃を受け、これが原因で大きな負債をかかえて倒産してしまった。

 成長企業の倒産はよく聞く話である。でも、組織が生き残ってゆくにはどうすればよいのか。生存への危機を感じた国際的巨大企業が、力を尽くしてこのテーマに取り組んだことがある。1980年代初頭の世界的石油生産・販売企業ロイヤル・ダッチ・シェルである。

 当時、石油の埋蔵量は30年から40年で掘りつくされると考えられていた。シェルは年間1000億ドルを超す売り上げがあり、100カ国にわたる世界規模の石油ビジネスを展開していたが、それをどのように転換して生き延びていけるのか。前代未聞の経営課題に取り組む調査であった。

 その結果、驚くべきことが分かった。一つは企業の平均寿命が非常に短いことである。米国の代表的企業であるフォーチュン500社の多国籍企業の平均寿命は、40年少々という短さであった。ほとんどの会社は10年以内に消滅してしまうが、それを乗り越えて発展した大企業でさえ、50年ももたない。

 もう一つは、数は少ないが、寿命が200年を超す企業が一方で存在するということであった。そしてこのような長寿企業に共通する点は、「学習して」、新しい環境に適応してきたことだと指摘した。

 これに大きな刺激を受け、「学習する組織」を構築する上で理論的基礎を提供したのが、1990年に発刊されたピーター・センゲの『第5のディシプリン』で、世界的ベストセラーになった(邦訳『最強組織の法則:新時代のチームワークとは何か』徳間書店)。また、94年には実践テキストも発刊され、世界の企業で研修に使われている(邦訳『フィールドブック 学習する組織「5つの能力」』日本経済新聞社)。

 センゲは学習する組織になるための五つのディシプリンを掲げた。ディシプリンとは、実践するための学習し修得すべき理論と技術の総体のことをいう。その一つにチーム学習というものがある。仕事の実際上の推進単位であるチームで、いかに学習するかの規律と実践法を説いている。

 チームによる共同思考は、個人の思考をはるかに超える学習を可能にする。その力を利用して、物事の本質を探究することを目指す。センゲは、本質を探究する共同思考のためには、ディスカッションとダイアローグ(対話)という二つの方法を組み合わせることによって可能となるという。また、ほとんどの組織がディスカッションはできても、ダイアローグに至らないと指摘している。

 A社はディスカッションをして、状況を皆で分析した結果、攻撃的な営業方針の意思決定をした。しかし、この決定のために物事の本質の探究が抑えられることとなった。英語の決定(ディシジョン)の語源は「代替案を殺す」というラテン語にあるが、A社は選択をしたものの、選択の理由の追求は中途半端に終わったのである。

 ダイアローグとは、「意味が流れて通る」というギリシャ語に起源がある。自分の考えにこだわるのではなく、相手と共同して自由に本質を探究し続けることである。そこにおいては本質を学習しようという自発性、積極性が必須条件となる。

 A社は意思決定を急ぎ、その結果、多忙に追われた。社員は積極的に対応したように見えた。しかし、販売営業強化の決定のゆえに、販売量の増加が喫緊の課題となり大きな圧力となって、一部の得意先への依存という安易な道を突き進んでしまった。成長事業のリスク回避のためには、顧客の多角化に取り組むべきだったのだ。

 また、社員が多忙なゆえに、共同思考が分断されてしまった。アクティブ(積極的)な姿勢は良く見ると二つの内実に分けられる。一つは、リ―アクティブ(受動的)。積極的に見えて実は他からの対応に追われて受動的になっているのだ。それは、本当の意味での積極的で主体的な(プロ―アクティブ)姿勢とはかけ離れている状態である。学習するには、本質を学ぼうという真に積極的な意志と姿勢が必要である。

 ダイアローグでは、自分の考えを提示する。自分を防御しない。イメージとしては、相手にも良く見えるように自分の前に吊るしておくようにする。そして、人の意識の奥にある「共通の意味」を見いだし、共に物事の本質に迫る。物理学者のデビッド・ボームは、思いの根源が観察されれば、思いそのものが、良いものに変わるという。文化人類学者のマーガレット・ミードはこのようなダイアローグを実践したグループのみが世界を変えてきたと指摘している。

 ダイアローグを身につけた学習する組織は、行動を変え、成長を続ける。それはやがて世界を変えてゆく。

 くりやま・なおき 1960年、大阪市生まれ。創価大学大学院博士後期課程修了。ILO(国際労働機関)本部勤務、日本ILO協会月刊誌「世界の労働」編集長、ジュネーブ大学現代アジア研究所客員教授、ILO国際労働問題研究所訪問研究員を経て、創価大学経営学部教授。著書に『グローバリゼーションと「労働」に関する研究』など。