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成長する人と組織――人的資源の可能性

(2005年6月7日付)


“内発的な開発”こそ鍵
人間生命の可能性見つめて


 人が生まれて初めて生きる力を表現するのは、産声をあげることである。それを最初に聞いて愛情を注ぐのは母親である。

 驚くべきことに生まれたばかりの新生児は、この愛情を受けて笑顔を浮かべる。人間は泣くことも、笑うことも、生まれる前から知っているのだ。誰かから教えられたものではなく、内発的に湧き出てくる能力の発揮なのである。同時にそれはあたかも「成長への力を支えて」という人とのかかわりを求めるメッセージのように、まず母親に向けられるのである。

 この母と子の姿は、「人は人との支援的なかかわりの中で成長する」ということが本来的であることを示している。人は肉体の成長のみならず、知的、精神的に高度な成長を続けるために、長い間さらに複雑な組織的かかわりを必要とする。かくして、人の成長のために、人と組織のかかわり方が大きなテーマになるのである。

 楽観主義心理学の主唱者であるセリグマン博士は、6人の子ども全員に、1歳になるまで「同調ゲーム」を続けたそうである。

 子どもが机をバンとたたけば、それに応えて同じようにバンとたたく、2回たたけば2回たたくというふうに、行動に応えてあげる。子どもたちは自分の行動に応えてくれることを喜んだ。そうすることで行動と結果の同調性を知ることができ、それが人生をポジティブに生きていく上で重要だという。

 人と人のポジティブなかかわり方は、もっと複雑な組織を研究対象にする経営学の一大テーマである。その探究に視点を置く人的資源管理という分野がある。この言葉はヒューマン・リソース・マネジメントの訳語で、欧米に限らず世界のビジネススクールや大学で標準的な科目として確立しているものである。

 この学問分野は、伝統的な人事管理が人をコストとみなし、受動的義務的に管理をしてきたことを反省し、人的資源には膨大な可能性があり、それを活用して経営に積極的にかかわっていくことを視点に置く。

 1970年前後からアメリカを基点として発展してきたが、日本には90年代から知られるようになった。しかし、まだまだ一般にはなじみのある言葉にはなっていない。ただその考え方や実践は、日本の企業経営を中心に実質的に広まっているといえ、創価大学も2000年よりこの科目が開講されている。

 この分野には二つの理論的な流れが影響している。一つは人をコストではなく資本ととらえ、教育訓練投資を重視することにより、経済的価値の創造につなげようとするものである。そして二つめは、人には膨大な未開発の資源があり、それを活用するために、人と組織のかかわりと行動を探究する行動科学とか組織行動論と呼ばれている諸理論である。

 この第2の視座については、すでに1970年代半ばに池田名誉会長とローマクラブのペッチェイ会長との対談で確認されていたものと一致している。「成長の限界」を指摘したペッチェイ氏は、唯一残された限りない資源が人的資源であると指摘した。人的資源は成長の限界がなく、その資源を持つ人間は、無限に成長し続けられる存在だととらえた。

 人的資源という用語をめぐっては、国際労働基準を設定するILO(国際労働機関)の場で1970年代前半に議論が起こった。

 人的資源という名称では、活用される資源というニュアンスがあり、主体性がなく受動的ではないかという批判があった。これに対し、リソースを複数形にすることによって、人の資源は一つではなくたくさんあり、さらには無限にあるという意味になることに着目。この視点を強調することによって、むしろ人間の可能性と主体性を示唆するものであるという主張がなされた。

 結果的に1975年に人的資源開発というタイトルを冠した国際基準が確立した。この基準はILOによって、昨年新しい状況を考慮に入れて改正されたが、人的資源開発というタイトルはそのままで、生涯を通じての開発が重要であることが強調された。

 ところで、この開発というアプローチも人的資源管理を特徴づけるものである。人的資源を開発するとは、人を訓練して外から教え込むというだけでなく、人がもともと持っている未開発の資源を引き出してゆくことを意味している。外的な強制力では、引き出すことは困難である。内発的な資源の開発をいかに進めていくか、ここに成長する人と組織を考える鍵がある。

 そして組織が成長するためには、事業に成功し、競争に勝たなければならない。組織が行う人的資源管理にはそういう結果が求められる。組織の平均寿命は50年に足らず、人間の平均寿命よりずっと短い。組織が成長することは、人の成長より難しいのである。

 (創価大学教授)

 くりやま・なおき 1960年、大阪市生まれ。創価大学大学院博士後期課程修了。ILO(国際労働機関)本部勤務、日本ILO協会月刊誌「世界の労働」編集長、ジュネーブ大学現代アジア研究所客員教授、ILO国際労働問題研究所訪問研究員を経て、創価大学経営学部教授。著書に『グローバリゼーションと「労働」に関する研究』など。