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報道分析:社会人類学の視座

原麻里子

【3】


リスク(危険の恐れ)の読み解き方
政治的発言と科学的発言は分けて伝えよ

(2003年3月11日付)


 私たちを取り巻く環境はリスク(危険の恐れ)に満ちている。ここでは、最近、発生した事故から、科学技術のリスクについて考えてみる。

 JR西日本山陽新幹線で、運転士が居眠り運転をする事故があり、事故発生後の対応の悪さも問題になった。JRは事故の原因を運転士が睡眠時無呼吸症候群(SAS)に罹っていたためと発表。しかし、運転士の居眠り中にも、新幹線が安全に走行したことで、技術の安全性・信頼性は証明されたと伝えられた。

 マスコミは、乗務員の健康管理のあり方や乗務体制の点検など事故の背景を検討する必要があるとは訴えているが、いつの間にか、事故の責任を一人の運転士の病気に負わせ、安全神話の再確認を助けている。

 多くの死傷者を出した韓国大邱市の地下鉄火災では、放火による火災発生時の避難誘導問題等、地下鉄公社の管理責任が問われている。また、地下鉄の安全対策をめぐり、与党と野党の論争も始まったと伝えられる。

 これらの事故は、誰にも起こり得る「民主的」なリスクによる被害である。従って、一連の事故を受けて、新聞では、営団地下鉄・JR上野駅の地下ホームで行われた東北新幹線車両火災の避難訓練の様子等が伝えられ、情報源である交通機関の安全性を強調している。

 その一方で、米スペースシャトル「コロンビア」号の空中爆発事故は、一見、科学技術の進歩に挑戦する事によって発生したものではあるが、避けることが可能であったリスクである。事故前の報道では、初のイスラエル人飛行士や、日本の学校が協力している科学実験等、明るい話題が多かった。

 しかし、事故発生後、報道の調子は変わる。悲嘆にくれるニュースと共に、コロンビア号は、打ち上げ時に、問題が発生していたことが分かってはいたが、当初は「飛行には影響はない」と発表されていたと伝える。

 また、事故原因が船体の老朽化によるものかどうかは不明と伝えられる。そして、米国では、事故調査委員会が、米航空宇宙局(NASA)以外の航空宇宙専門家を招いて、公聴会を開き、「調査委はNASAに依存している」との批判をかわそうとしていると伝えてもいる。

 事故を引き起こしたリスク要因は、情報源によって作られている。そして、記事は、リスク社会の構造そのものに原因があっても、情報提供者の枠組みから、危害の責任を、社会や政治よりも個人に負わせがちだ。

 リスクは非常に政治化されている。政府や関係者は、己の政治や業務は安全と、科学を用いて人々に説得を試みる。そして、研究調査報告書が提出されるが、研究結果は、前提条件、研究方法や使用データ等で異なることはよくある。しかし、マスコミは、科学者達が合意していない事実でも、人々に理解しやすいように、報告書を単純化して伝えてしまう。

 リスクの記事は専門家の知識を人々に知らせ、その対策を考えることを促すことであるが、専門家の視点が問題の解決には最上であると、技術の安全性を人々に信じ込ませやすい。

 リスクとその危害に関する情報は、政治的か科学的かというよりも、この二つが絡み合っている。マスコミは政治的発言と科学的発言を分けて伝えて欲しい。また、証明に用いられている事実が示唆しようとしている点の考察を望む。人々が合理的な判断をするためにも、詳細かつ正確な情報の伝達を望みたい。

 リスクの話題には、情報源の権力構造が見えるのみならず、社会の科学に対する恐れと精神状態が示されているとも言える。(慶応大学非常勤講師)