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【グローバル社会は今 10】
加瀬みき


欧州連合(EU)の現状

注目すべき欧州憲法への動き

(2003年5月20日付)

 欧州連合(EU)は、4月のギリシャサミットで新たに10カ国の加盟が正式決定し、またジスカール・デスタン元フランス大統領を議長とする諮問会議が、欧州憲法を練っている。欧州統合という戦後の大プロジェクトは、「欧州」の力と性格を決定する歴史的な局面を迎えている。

 欧州憲法が注目にあたいするのは、もし、憲法が統合を最大限に進めた場合、「欧州」が、巨大な一つの「国」になる可能性があるからである。EUは、既に一つの経済圏を作り、西欧諸国の経済・貿易を活性化させるという目標を達成し、加盟国の多くが共通通貨(ユーロ)を採用している。

 ジスカール諮問会議は、今後、政治、外交、法律、福祉といった国家運営のあらゆる分野での統合をどこまで進め、加盟国の主権とEUの統治権をいかにバランスさせるかを問うている。

 現・新加盟国は、国の大小、歴史的な要因などから意見が激しく分かれている。EUをあくまでも独立した国家の集まりと捉えるのか、あるいは加盟国政府を超える超国家とするのか、大国と小国をいかに「平等」に扱うのか、政策決定はどのように行うのか、加盟国すべてがあらゆる分野で同じ歩調で統合するのか。こういった問いに対する回答はすべて、欧州の域内における効率性ばかりでなく、対外影響力を決定することになる。

 このうちドイツと、ベルギーをはじめとする小国は、「欧州」という超国家を望み、経済金融政策ばかりでなく、エネルギー、社会政策、法制、農業など幅広い分野でEUへ権限を委譲し、EUが共通政策を取ることを目指している。

 第二次大戦の重荷を抱えるドイツは、欧州という大きな枠に溶け込むことを望む。故に強かった自国通貨を捨て、ユーロに加盟した。小国の気持ちは、あるベルギー人が言い表している。「もしあなたが、なんの影響力もないちっぽけな国の国民だったら、大欧州の『国民』になりたいと思いませんか」

 一方、主権を重んじ、ユーロにすら加盟していない英国はもちろんのこと、フランスも独立した国家の共同体を描く。特に英国は、政治、外交、社会などいかなる分野においても、政策の決定権が、ロンドンからブリュッセルに移ることを民主国家の国民としての権限の放棄とみなす傾向が強い。フランスは、共に欧州統合を進めてきたドイツへの配慮がある一方、現政権は国家共同体を推進したド・ゴールの流れを引き継いでいることも見逃してはならない。

 いわば欧州大統領となる理事会議長、並行した権限をもつ可能性のある欧州委員会議長を、だれが、どのように選出するのか、大統領にはいかなる権限が付与されるのかも、EUと加盟国間の力関係を決定する。意思決定方式も問題となる。

 加盟国が増えるほど全会一致という方式はありえなくなるが、提案されている過半数には、欧州人口の3分の2以上という条項も伴っている。計算上、最大国のドイツとそれ以外の大国のうち2カ国で、いかなる案件の批准も妨げられることになり、小国の国民の利益は代表されないという心配もある。加盟国の国益や見解の乖離の深さから、EUは結局は主要分野では国家が主権を堅持する国家の集合体となる可能性は高い。

 しかし、ジスカール諮問会議が、より広く、深い統合に向けた意見調整に成功した場合、欧州はアメリカより大きな人口とGNPを抱え、各分野に多大な影響力を持つ「国」となる。国際社会における力のバランスも大きく変わる。加盟国の域外国への政策にも変化を及ぼす。

 例えば、北朝鮮問題で英国外交官は地道ながら北朝鮮との接触を行い、英国やフランスはアメリカと共に核不拡散対策を練っている。EUが「国」となった場合、こういった外交活動はどこまで個別国家の判断でおこなえるのだろうか。欧州憲法の行方は域外国にも大きな影響がある。

 (アメリカン・エンタープライズ政策研究所客員研究員)