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【グローバル社会は今 8 ワイド版】
加瀬みき


イラク対策巡る米英VS仏独の対立

国連、欧州連合、NATOに地殻変動

(2003年2月18日付)

割れた陶器は元に戻らないとも

 イラク対策を巡る対立は戦後60年近くかけて築き上げてきた国連、欧州連合(EU)、北大西洋条約機構(NATO)といった政治、経済、安全保障体制に地殻変動をもたらしている。

 欧米間そして欧州各国間に掘ってしまった溝はあまりにも深く、たとえ最終的には国連の安全保障理事会で第二のイラク決議が通っても、またNATOがトルコの防衛体制に必要な装備を派遣しても、割れた陶器は二度と戻らないと囁かれている。

 NATOは実質崩壊、国連は国際連盟のごとく無能に、そして欧州統合プロジェクトは逆に分断へ、というのが暗いシナリオである。

 なぜイラクを巡る見解の相違がここまで深刻な事態を招いているのだろう。

 NATOという集団安全保障を目的とした組織内で加盟国であるトルコが攻撃の危険にさらされる可能性があり、当事国から依頼があったにもかかわらず、フランスが、基本的な防衛対策を提供することに反対をしている。

 次に欧州内の対立がさらけ出されたことがある。

 フランス・ドイツが戦争はもはや不可避という米国の見解に反対するのに対し、欧州8カ国の代表そしてNATO加盟を目指す旧東欧10カ国の代表が新聞紙面で米国の立場への支援を表明した。これはフランスとドイツの立場が、この2カ国が示唆してきたように欧州全体の意見ではないことを暴露した。

 そればかりではなく、欧州各国、特に小国が、この2大欧州大陸国(ドイツとフランス)が抱いてきた当然自らが欧州を代表する、という独善的なリーダーシップに異議を唱えたことにもなる。

 そして国連は安全保障理事会が全会一致でイラクに最終通告を突きつけたにもかかわらず、この決議の解釈や遂行を巡って常任理事国が激しく対立し、サダム・フセインが国連を無能にすることに成功したと言われても致し方ない事態に陥っている。

仏中心、米国抜きの欧州めざす

 これらの米国対フランス・ドイツ、あるいは欧州各国間の対立のきっかけはイラクではあるものの、裏にはさらに深い事情がある。

 NATO、EU、国連とどれをとっても対立は究極的には米国対フランス、それを支援するドイツという構図になる。そのフランスは欧州における米国の存在と影響力を疎んじ、米国から独立した欧州確立を長年公言してきた。

 しかし、旧東欧諸国ばかりでなく欧州各国のほとんどは、欧州における米国の存在は安全保障ばかりでなく、政治、経済などあらゆる面で欠かせないものとの立場をとってきた。

 そもそもドイツとフランスという二度の大戦の宿敵をいわば首根っこで掴み共存させ、欧州統合を押してきたのも米国である。米国抜きのNATOには意義も信頼性もないのは、核の抑止力ばかりでなく、ボスニア、コソボ戦争が如実にものがたっている。

 しかし、米国から独立した欧州を唱えるフランスは、古くはNATO本部をフランスから退去させ、近年では欧州独自の臨時部隊創設というように、米国抜きのフランス中心の欧州を目指してきている。

 一方、ワシントンのパーティーでは、フランスの悪口が一番受ける冗談といわれる。

 一連のフランスの動きは、すべてしたたかな米国追い出し作戦ではないかという疑惑が真剣に論じられても仕方がない歴史がある。

 ドイツは戦後復興、冷戦中の安全保障、東西統一と米国への恩は深い。それだけに先の選挙で藁をも掴む思いのシュレーダー首相が反米感情を利用したことは、米国に大きな衝撃であった。

“西洋同盟”は内部崩壊の危機

 シュレーダーは勝利したが、国民はイラク戦争に反対でありながらもドイツを世界から孤立させた首相への反感をますます深めている。

 二度の戦争という過去を消したいドイツは「昔の名前」でない形で欧州に溶け込み影響力を行使したいが、その衣がEUであり、この衣を仕上げるにはフランスと組まざるを得ない。

 この二重の弱みに乗じ、フランスは一気にフランスが築く、米国と対峙する欧州を確立しようとしているが、他の欧州諸国、特に小国や旧東欧諸国のドイツ・フランスへの不信感はつのるばかりである。

 欧州統合は、貿易、経済、通貨という分野別の統合から政治統合を確立することにより、米国と対等の実力を持つ強い欧州の確立が目的である。しかし近くに見えた欧州統一外交安全保障政策は今や蜃気楼としか映らない。

 米国としては戦後国際社会そして同盟国のために作り上げてきた組織から裏切られたと見る向きは強い。望まれないのに長居することはない、とばかりにドイツ基地からイラク方面に派遣された米軍はドイツに戻らない、という憶測がすでに出ている。国連が残虐で危険な独裁者に立ち向かう決意がないと判断すれば米国は国連を無視し単独行動に走るだろう。

 元ソ連KGB(国家保安委員会)の高官で英国のスパイとなったゴディエフスキーは、NATOやEUと言った組織が一致団結していたことがソ連にとって一番の脅威だったと語っている。今その基盤が内部崩壊の危機にさらされている。

(アメリカン・エンタープライズ政策研究所客員研究員)


略歴

 かせ・みき 東京都生まれ。上智大学外国語学部卒。米国フレッチャー外交法律大学院修了。1978〜94年、東京銀行勤務。スタンフォード大学ワシントン校客員研究員を経て、現職。著書に『大統領宛 日本国首相の極秘ファイル』(毎日新聞社刊)がある。現在、西側同盟をテーマに日本、アメリカ、ヨーロッパにて調査、インタビューを行っている。