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(2002年11月19日付)
欧米関係の要である北大西洋条約機構(NATO)の首脳会議が3年ぶりに11月21日からプラハで開催される。加盟国拡大に注目が集まるが、昨年の米国での同時多発テロがきっかけとなり、拡大以外の面でもこの会議はNATOにとって大きな節目となる可能性がある。
3年前、チェコ共和国、ポーランド、ハンガリーが、東ヨーロッパの旧ソ連衛星諸国の中からNATOに加盟した。当時はロシアとの関係から、それ以上の新メンバーの加盟は否定しないまでも、拡大のスピードが落ちることが予測された。
特にエストニア、ラトビア、リトアニアというソ連が戦後併合したバルト3国の加盟はあまりにもロシアの神経を逆なでするものと問題視する傾向が強かった。ところが、正式な数字は決まっていないと言うものの、新メンバーとしてバルト3国およびスロバキア、スロベニア、ブルガリア、ルーマニアの7カ国が迎えられるのはほぼ間違いない。
NATOがロシアの国境および黒海まで東方進出することにロシアが異議を唱えないことが今や当然とされること自体が最大の驚きかもしれない。これは同時多発テロ以降、ロシアのプーチン大統領が米国およびNATOといわば対等のパートナーとなる道を選択したことがきっけとなっている。これほど順調で大々的な拡大は3年前にはだれも予想だにしなかった。
拡大が当然とされる一方、試金石となりうるのが、先月ラムズフェルド米国防長官が提案したNATOラピッド・リアクション・フォース(迅速対応部隊)である。5千人から2万人規模の兵が7日から30日以内に戦場に配備され、少なくとも1カ月は戦闘態勢を維持することを目標としているこの新部隊は、欧州側のNATO加盟国と米国との関係を占うことになる。
湾岸、ボスニア、コソボといった戦闘を通じ、欧州と米国の軍事力の差が問題視されてきたが、アフガニスタンがさらに両者の溝を深くした。同時多発テロ発生後NATOが第5条を発動し、米国にあらゆる協力を申し出たものの、特殊部隊などの限られた分野での個別加盟国の参戦以外、NATOとしては実際の戦闘には米国から声がかからなかった。
米国には、欧州諸国が米軍と同レベルで戦える機材も技術もない、かえって足手まといになるという思いがある。一方、欧州各国には米国は一国主義でせっかくの欧州の申し出を受けないどころか、防衛のためには先制攻撃も辞さない、いわば図体の大きいカウボーイに対する深い不信感がある。
実態は、応酬される言葉が示唆するよりは実質的な協力体制が存在する。しかしNATOは米国にとってもはや「年増」で何の魅力もなく、拡大により一層その機能が薄められ、単なるおしゃべりグループに成り下がるのではないか。その結果これまで築いてきた欧州と米国の絆が壊れるのではないか。こういった逼迫した不安が大西洋の両側にあるのは事実である。
新迅速対応部隊はこういった問題への対応と言える。テロ戦争が長期化し拡大するに従い、米国は同盟国の必要性や意義を認めざるを得ない。相手を説得し、納得させ、協力させるのは面倒であっても、超大国であろうと外交から武力行使その後の国家再建と一国のみで全てを継続的に行うことができないのも事実である。
NATO加盟国間には力や貢献度に大きな違いがあるものの、50年間共に協議し、戦略を練り、訓練をし、情報を分かち合ってきた一番共に行動を取りやすい同盟国である。新部隊は欧州加盟国の軍事、技術レベルを上げると同時に、コソボやアフガニスタンと言った事態が次に起きた場合、米国が自信を持って要請できる部隊となりうる。アフガニスタンの場合と一転し、米国がNATOの軍事参加を求める可能性を物語っている。
欧州加盟国もこの米国の提案を歓迎している。さらには欧州各国に不足している大量輸送用の長距離戦略輸送機の複数の欧州国での共同リースや、空から地上の攻撃目標を定める最新機器を搭載した航空機の購入などもプラハで発表される見通しである。
NATO事務総長のジョージ・ロバートソンは先月ワシントンで行った講演で、欧州各国の装備の補完や近代化の実現性そして新たな協力体制への欧州各国の強い決意を強調した。
米国のタリバン攻撃が始まった頃、ドイツの著名なジャーナリストは、米国がNATOの協力を要請しなかった点を指摘し、これでNATOは墓場行きだ、と嘆いた。プラハサミットは、NATOの意義を問い直すばかりでなく、米国そして欧州諸国が真の同盟国として協力体制を敷けるかを占うことになる。
(アメリカン・エンタープライズ政策研究所客員研究員)
略歴かせ・みき 東京都生まれ。上智大学外国語学部卒。米国フレッチャー外交法律大学院修了。1978〜94年、東京銀行勤務。スタンフォード大学ワシントン校客員研究員を経て、現職。著書に『大統領宛 日本国首相の極秘ファイル』(毎日新聞社刊)がある。現在、西側同盟をテーマに日本、アメリカ、ヨーロッパにて調査、インタビューを行っている。