![]()
(2002年10月22日付)
イラクを巡っては査察官の受け入れ条件、米国による軍事攻撃の是非と国際舞台での激しい攻防が展開しているが、一方アメリカ政府やイラク反体制派の間では既に現体制打倒後のイラク国家のあり方についての活発な議論が始まっている。
サダム・フセインを打倒したものの、その後、責任ある民主的な国づくりを担える人材や国家としての土台があるのか。先進国の威信と血をかけた結果がフセインと同じか、あるいは、よりひどい独裁者でない保証があるのか。そもそもこの地域に民主的な政権を樹立すること自体が可能なのか。戦争懐疑派からも賛成派からも、こういった切実な問いかけがなされている。
アメリカ政権内部では、第二次世界大戦後のドイツや日本をモデルに多数の占領軍を配備する必要性も議論されている。しかし、外部がいかなる構想を練ってもイラク人の賛同、少なくとも協力がなくては成功しない。
反体制派イラク人による新国家構想は実は11年前からすでに練られはじめている。11年前、つまり湾岸戦争はクウェート人ばかりでなくイラクの人々にも大変な悲劇をもたらした。戦争はインフラ(社会資本)を破壊し、その後の飢饉と病気の充満と相まって人々は貧困に陥った。
また、国の指導者の戦争責任を追及しようとした人々は逮捕され、多くが拷問を受け、獄中死した。欧州やアメリカに亡命したイラク人は、暴力による支配を打破し、民主的な国づくりを実現するための土台を試行錯誤を繰り返しながら練っている。
反体制派組織の傘となっているイラキ・ナショナル・コングレス(INC)の代表のチャラビ氏やブランダイス大学の客員教授マキヤ氏(イラク出身)などが中心となり組織しているチャーター91という新国家体制構築を目指しての署名運動がある。
チャーター91には新国家の基本姿勢が述べられているが、人としての生きる権利、あらゆる恐怖からの解放、異民族や異宗教への寛容、議会代表制などと共に新憲法に以下の文言を含めることを提案している。
「イラク国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇または武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。国に交戦権は、認めない」
この文言は決して偶然ではない。意図的に日本国憲法第9条をそのまま用いている。
戦争、侵略、殺戮を繰り返してきたイラクが平和な国家となるには、巨大な軍を縮小し、武力を国内外の問題解決手段に用いないようにするしかないという切実な思いが込められている。
もちろん自国の安全をないがしろにしたり、領土侵略を受けいれるわけではない。周辺国の軍事体制によるところも大きい。イラク財団理事長、レンド・ラヒム・フランケはもちろん近隣諸国や大国との安全保障条約あるいは地域の安全保障条約体制も検討しなければならないと言う。
海外に亡命しているイラク人は200万から300万人と言われるが、その内のほぼすべての人たちが、現政権打倒後には少なくとも一時的には母国に戻り国の再建に貢献すると言う。海外在住者には法律家や技師が多く、新国家の法体系やインフラ整備に従事することになるだろう。
彼らは他国の意思のみで母国の新体制が築かれるのではなく、大国の協力を得ながら自身の手で自国の再建を図ることを望んでいる。日本国憲法の平和条項がどのように解釈され取り入れられるか、それは新イラク体制ばかりでなく中東情勢のものさしかもしれない。
(アメリカン・エンタープライズ政策研究所客員研究員)