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メディア月評

連載コラム
「メディア月評」
明治学院大学教授・川上和久

【9】



小泉訪朝と両国マスコミの問題点
北朝鮮は拉致伝えず、日本は安否情報勇み足

(2002年9月24日付)


 9月17日に行われた、小泉首相による北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)訪問は、たしかに、歴史的瞬間だった。今まで、隣国でありながら謎に包まれていた北朝鮮に首相自らが訪れ、最高指導者の金正日総書記と会談し、拉致問題について、北朝鮮から回答を引き出したのだから。

 しかし、拉致された人たちの、家族の方々の悲痛な表情そのままに、今回の小泉首相訪朝では、悲しみと怒りがとめどなくこみあげてくる。かけがえのない肉親が拉致されているという、やりきれなさを抱えながら、相手が国交のない国であるがゆえに、そして政治や行政が、結果として拉致問題を軽視していたが故に、100%死亡が確認されたわけではないにせよ、国家によるテロの犠牲者を生んでしまった可能性が高い。

 主権国家たる我が国から人が拉致され、誰が見ても不自然な死を遂げている。北朝鮮による国家的犯罪を目の前に突きつけられたにもかかわらず、「日朝平壌宣言」には、拉致の文言もなければ、拉致に対する謝罪の言葉もない。拉致された人々の家族の方々のみならず、私たちにしても、この宣言は到底、納得できるものではない。

 公式な文書である平壌宣言に拉致の言葉が盛り込まれなかったことは、厳しい情報統制を敷いている北朝鮮のメディア事情とも関係している。

 新聞報道によると、案の定、17日午後8時のニュースで朝鮮中央テレビが、日朝首脳会談が平壌で開催されたことを報じた後、日朝平壌宣言の全文を読み上げたが、拉致被害者の問題、それについて金総書記が謝罪した点についても一切触れていない。

 18日朝の国内向けラジオ「朝鮮中央放送」の午前7時からの定時ニュースでも、トップで17日の小泉首相と金総書記の首脳会談を伝え、日朝平壌宣言の全文を読み上げたものの、テレビと同様、拉致問題には触れずじまいだし、朝鮮労働党の機関紙「労働新聞」でも、宣言の全文や写真などについては掲載されているものの、これも拉致問題には触れずじまいだ。

 要するに、北朝鮮の人々には、国家テロである拉致問題が、一切知らされておらず、北朝鮮という国家システムと宣言作成に向けての狡猾さが、それを可能にしたことになる。相手が重大な犯罪を糊塗しているにもかかわらず、国交正常化交渉を再開しようというのは、国民感情からいっても耐え難い。

 誠意ある対応をとるというのならば、まず真実を国民に知らしめているかどうかを厳しくチェックする必要がある。情報操作で人を欺くことほど、露見した際、不信感を募らせることはない。

 経済協力という名の実質的補償は、我々の血税から支払われる。もし万が一、国民の中の根強い不信と怒りを抱え込んだまま、政治が安易に経済協力に踏み出してしまうとしたならば、それこそ我が国の国内政治自体の大きな不安定要因となろう。ブッシュ政権の、安易な妥協はしないという強硬な姿勢が、今日の状況をある意味で創り出したということを忘れてはなるまい。

 今回の日朝会談における日本のメディアの勇み足にも辟易した。有本さんら3人の一時帰国が認められる見通し、との誤報があって、一部夕刊でもそれが報じられたり、行方不明者9人の生存確認情報が一時流れたりした。速報性を競うあまり、安否情報について、各メディアが安易に飛びついたのはいただけない。

 後味の悪い日朝会談ではあったが、断じて不信感を抱えたままのうわべの国交を求めてはならないという教訓を得ることができたのではないか。

(明治学院大学教授)