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メディア月評

連載コラム
「メディア月評」
神戸女学院大学教授・村上直之

【8】



ワイドショー政治を煽る新聞の世論調査
戦後世論についての2冊の本から

(2003年8月26日付)

 前回、メディアによる世論調査の傾向について触れたが、今月は最近あいついで刊行されたわが国の「世論」に関する本を2冊取りあげたい。

 1冊は松本正生著『「世論調査」のゆくえ』(中央公論新社)、もう一冊は佐藤卓己編『戦後世論のメディア社会学』(柏書房)。前者は数理統計学の立場から、また後者は質的な内容分析の手法によって、それぞれ戦後日本の政治と世論の変遷について論じており、まさに好対照をなしている。

 まずは、『「世論調査」のゆくえ』である。政治学者の手になる本書は、新聞社や通信社が実施した戦後の世論調査の変遷を追跡している。

 その主要なテーマは、「国民投票」の代用品とみなされる「世論調査」の方法の技術的変化が、わが国の政治と社会にどのような影響をもたらしてきたかという問題である。

 松本氏は調査方法の変化を面接法から電話法へ、さらに同じ電話法でも名簿方式からRDD方式へという3段階にわけ、およそ半世紀におよぶ各時期の「内閣・政党支持率」調査の推移を跡づけている。氏による丹念なデータの再加工にもとづく数多くの図表そのものが貴重な資料となっていることをまず記しておきたい。

 ちなみに、RDD方式とは、「対象者の抽出に有権者名簿や電話帳などの台帳を使うことなく、乱数によって電話番号を作成し、その番号にそってダイヤルする方法のこと」である。さらに、この方式はコンピューターと一体型となった電話で質問と回答の入力を同時に行い、結果の集計もリアルタイムで処理することを可能にしている。

 さて、松本氏がとりわけ重大な関心を注いでいるのが、このRDD(Random digit dialing)方式という時間的コストの上でも、経費の面でも画期的な調査法が「世論調査」それ自体にもたらした効果である。

 松本氏はそれを世論調査の「日常化」「政治部化」「アウトソーシング化」の3点にわけて論じているが、ここでは、もっとも重要と思われる論点のみをあげる。

 それは世論調査が「世論」を計測するものでなく「世論をつくる」ものとなっている現在のメディア状況への警告である。

 氏によれば、テレビの「ワイドショー世論」を批判する新聞それ自体が、もはやワイドショー政治を補完するものとなっている。

 今日の新聞各社の世論調査は、たとえば「小泉訪朝」時に行われた「緊急世論調査」のように「テレビ報道の影響度を検証する役割を果たしている」。その結果、「テレビ的な世論の、それも最大瞬間風速的反応が内閣の任期すら左右しつつある」と氏は指摘している。

 さて、もう一冊の『戦後世論のメディア社会学』は、わが国のメディア史で話題となった8つのトピックスを若手のメディア研究者たちが分担執筆した本である。

 紙数の都合上、一例しかあげられないが、第3章「女性週刊誌が支える天皇制」(石田あゆう著)のように、従来の数量分析的な世論研究が取りあげなかったテーマが扱われており、わが国の「世論」の深層レベルの質的分析がなされていてユニークである。

 この編著を貫くモチーフは戦後日本の「世論」が国民の理性にもとづく意見(オピニオン)ではなく、移ろいやすい国民の心情を表象するものでしかないことへの批判にあるが、統計分析を駆使した松本氏の本の警鐘とはからずも共鳴しあっていて面白い。(神戸女学院大学教授)