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(2001年11月27日付)
狂牛病第2号が出て、消費者の悩みは一段と深まっている。「食べるべきか、食べざるべきか」。スーパーの食肉売り場で、主婦らが考え込んでいる。家族においしいものを食べてもらいたい。しかし、農水省や厚生労働省の「安全宣言」は本当に信頼できるのだろうか。
メディアは、消費者のこのような不安に対して、判断材料を提供するのを使命のひとつとする。牛肉疑惑の焦点に鋭くメスを入れ、危険の有無を確定する報道に挑んでもらいたいものだ。
一方で、読者、視聴者の側でも、こういう生活上の一大事のさいには、平生よりもずっと注意深くマスコミ報道に接する必要がある。新聞などに対して、いわば「プロの読者」としての情報探知意欲を持つべき時代が訪れている。世にいうメディア・リテラシーとは、メディア利用者側のそういう能力のことだ。報道に流されるのではなく、批判的な精神でマスコミ報道の虚実を、その背後の事柄そのものを見分けてほしい。
畜産物の安全について行政上の最高責任をになうのは、農水省畜産部である。ジャーナリズムは、この役所機構に対しての追及を、これまで不思議なほど「お手柔らか」に済ませてきた。役所は本当の情報を出さず、新聞も最後のところはあいまいに済ませる――そういう漠然とした感じが読者の間に積もっている。
ひとつの例は、わが国における「狂牛病前史」時代にさかのぼる。EU(欧州連合)専門家グループが日本に来て行った「狂牛病汚染地理的リスク」調査を、農水省が妨害したことについての報道である。千葉県で狂牛病の発症ウシ第1号が出たのは9月10日だが、その3カ月も前のことだ。農水省は、EUのチームが結果を発表する直前になって、それを差し止めてしまったことがわかっている。
日本を、第3レベルの汚染リスク地域であると診断したせいだと言われる。「日本国内では発生していないにもかかわらず、EU独自の基準でリスクが高いと評価されてはたまらない」(朝日新聞・9月11日)という農水省のコメントがさりげなく載っていたことに、何人の読者が気づいただろうか。
今日の実情を踏まえてみれば、官僚機構の保身以外に何の意味もない言であることを誰しも知る。これについて、農水省の体質に根ざす対国民背信行為である、との至極まともな立場から詳細な内幕を明らかにしたのは、私が知る限りでは月刊誌『選択』の11月号が最初だった。騒ぎの発生からほぼ2カ月が経っていた。
この一件だけで判断したわけではないが、私は狂牛病に関する農水省の発表は信頼できないと個人的に結論づけている。(ただし牛肉は食べる。防腐剤や添加剤の匂いのするような食物よりも牛肉のほうが危険だとは考えないので)
逆に、狂牛病報道での金字塔を挙げるなら、それはNHKの「狂牛病・異常プリオンとのたたかい――不安にこたえる英国の対処法」(10月15日放映)だったとためらわず断言できる。
狂牛病先進地域(?)である欧州での取材を重ねた、専門的でしかもわかりやすい映像解説が素晴らしかった。英国当局がいかに徹底して病原体プリオンの食肉からの排除のため対策を講じているかが明確にわかる。
しかしこの番組は教育テレビの報道なので、視聴率は低かったに違いない。私たちに生活上の指針を与えてくれるような頼りになる報道はどこにあるか――これを知るのがメディア・リテラシーの第一歩だが、同時に一番難しい設問でもある。
(和光大学教授)