

(1999年3月13日付)
ダイアナ元英皇太子妃の死を機にクローズアップされた、公人の私生活を蹂躙(じゅうりん)するカメラマン「パパラッチ」現象は、フランスの市民の私生活尊重や肖像権に対する意識を一変させた。
公共の場で知らないうちに写真に撮られ、雑誌に掲載された無名の市民が「肖像権の侵害」で起こす訴訟は、五年前には稀(まれ)だったが、今では数百件を数える。民法第九条で保障された個人の私生活尊重の権利が、許可なき「肖像」の公表に反対する権利に拡大されるため、掲載された写真の内容が害のないものであっても、メディア側が敗訴し高額の賠償金を支払う例が相次いでいる。
第一線の目撃者たらんとするフォトジャーナリストにとって、このような風潮は「情報権の危機」の兆(きざ)しだ。訴訟のリスクを避けるため、顔のぼかしや後ろ向きのアングル、または物理的に許可を得ることが不可能な群集の写真など、表現の可能性は制限される。カテゴリー別に分類された作り物の「バーチャル・イメージ」が新聞・雑誌の文章を飾る一方、時代を切り取った生の写真は個展の壁に追いやられ、報道資料としての価値を失ってしまう。
しかし、風向きは「撮られる側」に有利のようだ。「被害者の尊厳を侵害する」犯罪場面や、被疑者の「手錠姿」の写真・映像の報道禁止を含む「推定無罪と被害者の権利」強化法案が、近々国会で審議される予定だ。
「肖像権」も「情報権」も、ともに各個人が矛盾なく享受(きょうじゅ)すべき基本的権利である。自らの権利に目覚めた市民の潮流によって、この二つの権利の間の正当な均衡(きんこう)が、ようやく模索され始めたと言えよう。
(三崎ロイヨ由美子・在仏ジャーナリスト)