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【経済とグローバリゼーション ワシントンの視点 6=完】
村上博美


WTO加盟、台頭する中国をどう見るか

地域安定も含め現実的な日中関係を

(2003年12月16日付)

 「中国は国際市場へのアクセスを得るためにWTO(世界貿易機関)参加を決めたのであり、WTO自体に影響力を行使しようという意図はない」――中国はWTOそのものを変えようと思っているのではないか、という質問に答えた中国人研究者の言葉だ。

 しかし、対米・対日でも大きな貿易量を誇り、地域経済成長のエンジンとなりつつある中国の参加が、今までの世界貿易の秩序を変えることは自明である。例えば、東アジアの貿易経済地図は大きく塗りかわり、2002年、日本は中国からの輸入が米国を初めて上回り、韓国の最大輸出国も今や米国ではなく中国である。

 ブラジルなどが声を上げるように「今までのWTOクラブメンバールールではなく、新メンバーがたくさん入れば新しいルールが必要だろう」というのもフェア(公正)な主張だ。かつて欧米、カナダ、日本という国が集まって世界貿易のルールを決めていた時代とは大きく変容しているのだ。

 中国が意識的にとる対米戦略は、明らかに世界経済秩序の再編となる米中パワーゲームが視野に入っている。GDP(国内総生産)比で見ると中国の外貨準備高は25%近くに上っており、台湾および香港を合わせると日本の外貨準備高を超える(日本はGDP比10%)。つまり、イラクやアル・カイーダに米国の矛先が向いているうちに、米国の対中経済依存を相当なレベルまで早く進めてしまいたいという、したたかな一面がのぞく。

 米国の消費型経済が大きく転換する可能性は少なく、今後も米国経済は外国マネーで赤字の穴埋めをせざるを得ない状況が続くことになれば、経済面での対中依存が進むことは、中国の対米レバレッジ(=てこ。小さな力で、大きなものを動かすしくみのようなもの)が増えることになる。

 人民元の問題にしても米国の国内政治問題という点を踏まえ、中国がとった方針は、ボーイング社からの大型発注やGM社からの大量購入である。これは米中貿易不均衡の解決にはならないが、中国市場に深く食い込んでいる米企業を中国支持にさせる強い影響力を持つ。

 この点において中国は日本に比べ、米国の国内ロビーメカニズムを念頭においたしたたかな戦略を取っており、米中間ではかつての日米貿易摩擦のようなことは起こり得ない。米国政府に発言権を持つ米国企業を中国市場で満足させることは、実は非常に大きな人質をとることに等しい。

 中国の経済成長が、実は地域安全保障の安定という面にも大きく影響している。中国自身が経済成長に恩恵を見出せば見出すほど、地域安定が何より大事だという中国の思いは強くなる。

 先の中国人研究者の「日米とも中国にとっては大事な貿易相手であり、アジアの安定は中国のみならず北東アジアの経済発展を支える上で死活的に重要である」という発言にも見られるように、6者会談で中国が米朝の平和的解決を支持するのは、地域の安定を乱せば自国経済が損失を被るという意識があるためだ。

 中国が意図的に過去20年間、軍事衝突を避けてきたことと、アジア市場へのアクセスと経済成長を重視した平和・安定を優先する考えが台頭してきたことは、偶然ではないだろう。これは目的を共有する日本にとってプラスの動きであり、経済貿易面での相互依存を密にすることで、地域安定も含めた現実的な日中関係へ舵をとることが可能になる。

 これを機会に、東アジアの安定を意識した地域内自由貿易圏の確立など、地域経済の6割のGDPを占める日本がこういった動きのイニシアチブをとることも、今ならまだ遅くはないのだ。

 (経済戦略研究所<ESI>上級研究員)


 むらかみ・ひろみ 上智大学理工学部卒。米国でMBA取得後、仏国商科大学院交換留学を経て米国ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院(SAIS)にて国際経済及び戦略論で修士号取得。CSIS(戦略国際問題研究所)にて元大統領補佐官ズビグニュー・ブレジンスキー氏の助手を務める。1999年9月より現職。政策海外ネットワーク(http://pranj.org)代表。