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【経済とグローバリゼーション ワシントンの視点 1】
村上博美


ならず者国家:米国の一国主義と善意の失敗

対外的なイメージが急速に悪化している

(2003年7月15日付)

 私が勤めるワシントンDCの経済戦略研究所(ESI)のプレストウィツ所長が『ならず者国家:米国の一国主義と善意の失敗』(仮題)を出版した。経済と安全保障とグローバリゼーションがテーマであり、ワシントンDCの視点の一つとして簡単にご紹介したい。

 この本は9・11同時多発テロ以前から構想されていたものだが、タイトルが「ならず者国家(=米国)」では“非国民扱い”されるのではないかと発売直前まで題名を躊躇した。日本語版は秋に発売予定だ。

 著者のプレストウィツ氏は米国を心から思うナショナリストである。1960年代に日本の大学院に通い外交官や企業人として長い海外勤務を経験し、80年代にはレーガン政権で商務長官の顧問を務めるなど通商交渉を通して海外に広く友人をもつ。

 外から見た米国が急速に醜くなったことに懸念を覚え、また一方でなぜ米国はそのように振舞うのかを説明している。特に、米国のアイデンティティは何なのか、どういう国になりたいのかという問いが根底にあり、原点に戻るべきだと説く。

 1630年に清教徒を率いて米国へ入植したジョン・ウインスロップが理想とした「丘の上の町」を引用しながら、「アメリカよ、どうしてしまったのか。世界が一目置いていたあのアメリカに戻ろうではないか」という願いが本書には込められている。

 著者は、ブッシュ政権が新戦略として「予防・先制攻撃」を宣言して以来、米国の覇権や軍事力に対抗しようとする勢力を容赦なく攻撃する現政権の姿勢に危惧を抱いている。米国が覇権を維持することは、果たして払われる犠牲(コスト)に見合うのか。ますます米国自身を危険にさらすのではないか。

 冷戦は終わったのだ。新しい秩序の中で、これまでの冷戦構造とグローバリゼーションを支配してきた米国は、今こそ他の国や地域と責任を分担し、富をも分配すべきだと主張する。

 とりわけ米国主導のグローバリゼーションは富を生み出す一方、世界各地でひずみを生んでいる。例えば、先進国の農業補助金がテロを生み出すという話は興味深い。

 莫大な補助金のおかげで、米国の綿花栽培農家の生産コストは、高性能の機械や肥料、遺伝子組み換え技術で高くつき、生産性は決して高くはない。しかも票田となる補助金は垂れ流しにされ、その結果、大量生産された綿は、世界市場へダンピングされ価格が乱高下する。

 一方、補助金もなく家畜と労働力であくせく働いて綿を輸出する途上国は、世界市場価格の下落により、本来自立できるはずの収入が激減し、国内の経済・社会・医療制度は最悪となり、その不公平感の中でテロが養成される。

 グローバリゼーションは米国では聞こえがいいが、途上国では「悪」と同一視される。資源や技術に差がある環境ではグローバリゼーションによって機能する「市場メカニズム」は、持てる者は優遇するが持てない者から搾取する。米国など先進国は、国内の農家にお金を払って農業を辞めさせ、途上国から産品を買うことで経済合理性とテロからの安全を確保する方が得策だと説く。

 経済・通商・軍事と広範囲にわたって例を挙げ、米国が醜く見える一因は、対外政策の決定過程で、特定の利益団体が影響を及ぼす制度にあると本書は指摘する。経済合理性と安全保障の関連性の指摘は、多くの面で日本にも当てはまり、日本のアイデンティティや国の方向を考える上でも大変刺激になるはずである。

 (経済戦略研究所<ESI>上級研究員)


 むらかみ・ひろみ 上智大学理工学部卒。米国でMBA取得後、仏国商科大学院交換留学を経て米国ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院(SAIS)にて国際経済及び戦略論で修士号取得。CSIS(戦略国際問題研究所)にて元大統領補佐官ズビグニュー・ブレジンスキー氏の助手を務める。1999年9月より現職。政策海外ネットワーク(http://pranj.org)代表。