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中国メディア事情

泉 京鹿

【10】(2006年5月23日付)


ブログ人口の急増

「自由」を潰しかねない無秩序さ


 ブログ(=個人や数人のグループで運営され、日々更新される日記的なWebサイトの総称)が元気だ。中国語では発音の近い「博客」という漢字で定着している。

 先月の本欄でも言及した今年の『中国メディア産業発展報告』(「メディア青書」)によれば、中国のブログ登録者は昨年末に1600万人を突破、今年中に6000万人、来年には1億人近い数に達すると予測される。同書は、一昨年の20万、昨年の200万という数字と比較し、飛躍的にブログ人口が増えた昨年を中国の「ブログ大衆化の年」と記す。

 中国のブログ人口の急増は、「名人博客(著名人ブログ)」の存在を抜きには語れない。昨年末から大手ポータルサイト「新浪ネット」で、歌手、女優、作家ら各界の著名人のブログが相次いで開設、たちまちアクセスが殺到。一般の人々のブログも急増した。

 中国の「ブログの女王」といえば徐静蕾。映画監督としての評価も高い美人女優の親しみやすい素顔が覗ける彼女のブログには、連日10万を超えるアクセス、数千に及ぶ書き込みが集中。ほぼ毎日更新され、昨年9月の開設以来、アクセスランキングのトップに輝き続ける。3月末には書籍化もされた。

 昨年9月、学生のブログで著作と人格を攻撃された南京大学の教授の訴えによって、地元裁判所がその管理サイトに権利侵害の判決を下し、精神的損害賠償金1万元(約14万円)の支払いを命じた。中国初のブログによる権利侵害訴訟事件といわれる。

 今年1月には相声(中国漫才)の著名人が、ブログで同業者とその家族を傷つけたと訴えられた。ブログから始まった論争が裁判で幕を閉じるという案件が続々登場する昨今の中国ブログ史上、一つのターニングポイントとなるのが「韓白論争」である。

 2月末、文芸評論家の白Yがブログで「作家とは見なせず、単なる文学愛好者にすぎない」「市場には食い込めても、文壇には入れない」と“八〇后(80年代生まれの作家を指す)”を論じた文章を発表したことに、24歳の人気作家・韓寒が自分のブログで反論、戦いの火蓋を切った。

 韓寒の罵詈雑言を諫めつつ白Yを擁護する評論家や作家、歌詞を無断で小説に掲載されたと韓寒の権利侵害を訴える音楽プロデューサー、文壇、権威批判を展開し韓寒を擁護する若手作家らがそれぞれブログで意見を表明し、大混戦に。

 文壇の存在意義、価値観の世代格差等、それぞれに興味深い意見の飛び交う、活発な議論となった。しかし議論の外で韓寒を支持する、多くは韓寒世代の若者たちが一斉に白Yのブログを攻撃、連日数十万という罵言が書き込まれた白Yのブログは閉鎖を余儀なくされる。

 中国で最初に閉鎖された「名人博客」がこの白Yのブログだ。韓寒のブログは、今や徐静蕾に続くアクセスランキング第2位の人気に。論争に参加した音楽プロデューサーや作家もその後ブログを閉じたが、論点は「ブログのモラル」に移行し、ブログの外でくすぶり続けている。

 4月末、全国から上海に駆けつけたファンに囲まれた写真を自らのブログに掲載したのは作家・衛慧。『上海ベイビー』発禁処分以来、中国大陸の書店で購入できる彼女の作品は、04年発売の『我的禅(邦題=ブッダと結婚)』のみ。発禁以前の過去の作品もほぼ入手不可能となっている。サイン会やメディアへの露出も制限されている衛慧の情報に長い間飢えていた中国の衛慧ファンにとって、また読者との交流を渇望する衛慧にとって、ブログは唯一といっていい貴重な接点である。

 衛慧の例だけを見ても、中国のブログは現在、報道や出版の制限やルールの外にある自由なメディアであることは間違いない。

 個人がブログで日本の文化について書いただけで、無秩序な攻撃が殺到するのもこの延長戦にあるが、そうした攻撃に対する冷静な反論、理性的な意見も言論の自由があるブログでは、少なからず存在する。

 しかし、自由な言論を完全に管理するシステムがないのをいいことに、健全な言論の自由が培われ始めたブログの世界を、他でもないブログユーザー自身の自由すぎる言論が潰しつつある現状が、中国ブログの抱える最大の矛盾となっている。

 (在北京フリーランスライター、翻訳家)

 いずみ・きょうか 1971年、東京生まれ。94年にフェリス女学院大学卒業後、北京大学に留学。博報堂北京事務所に勤務の後、フリーランスに。現在、北京を拠点にライターとしての活動のほか、翻訳など幅広く活躍している。主な訳書に『衛慧(ウェイフェイ)みたいにクレイジー』『ブッダと結婚』(ともに講談社)、『水煮 三国志』(JMAM)がある。