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メディアのページ

中国メディア事情

泉 京鹿

【8】(2006年3月28日付)


カリスマ記者・編集者たち

作り手自身がメディアに露出


 北京中心部のオフィス街。そびえ立つツインタワーのオフィスビル、高級ホテルの地下に広がるショッピングアーケードの一角で、先週末、ちょっと変わったファッションショーが行われた。

 次々と姿を現すスポーティーなファッションに身を包む男女の中には、すらりと背の高い、いわゆるモデル体型の人は少ない。ちょっとぽっちゃり目の女性や、小柄な男性が会場を沸かせる。彼らはプロのモデルではなく、人気雑誌の記者や編集者たちだ。

 アディダスとヨウジヤマモトのコラボレーションによるブランド『Y3』のフラッグショップのオープニングセレモニー。

 「狭い場所、限られた時間の中で、印象的な催しにしたかった」というPRディレクター、ニコル・チェンさんのアイデアだ。購買客の多くはモデル体型とは限らない普通の人なのだからと、人々にとって比較的身近でありながら、憧れの対象でもある職業の人々をモデルに抜擢した。

 中国メディアの作り手自身がメディアに登場する機会が増えている。顔の見えるカリスマ編集者や記者たちは、日本ならさしずめ『レオン』の岸田編集長というところか。中国のファッション、旅行、経済、総合情報誌などで目次に続くページのエディターズ・ノートに編集長の写真が大きく掲載されるのは、今や普遍的事象といっていい。ニコルさん自身も本業は超売れっ子スタイリストだが、ファッションコラムニストとしても大活躍で、自身の文章や写真もたびたび誌面を飾る。

 その翌日の昼下がりの北京市西北部。1860年、英仏連合軍の北京占領に際し破壊された廃墟が、そのまま遺跡として残された清朝の離宮・円明園は、ちょうど北京大学と清華大学に挟まれた位置にある。文教地区であるこの辺りは、悠久の歴史の面影を伝える遺跡を擁し、開発と商業化の激しい北京市内で、かろうじて素朴で文化的な雰囲気の残る地域だ。

 そんな円明園の片隅にあるプライベートライブラリー「単向街図書館(ワンウェイストリート・ライブラリー)」で今月から始まった文化サロンで、洪晃(ホン・ホワン)氏の講演が行われた。講演といっても大きなホールではなく、小さな庭に並べたソファに座る講演者を囲む、気楽なオープンサロンだ。

 人気フリーペーパー『楽(Time Out)』、ファッション雑誌『世界都市(I LOOK)』、トーク番組などのプロデューサーとして著名なキャリアウーマンの洪晃氏が、『覇王別姫』『プロミス』で知られる映画監督・陳凱歌(チェン・カイコー)の前妻であることは周知の事実。

 最近では、3月8日の国際女性デーに公開されたばかりの映画『無窮動(Perpetual Motion)』の主演女優としても話題の人だ。昨年、東京フィルメックスでも公開されたこの映画の出演者は、一人の女優を除いて演技は素人の、寧瀛(ニン・イン)監督の友人たち。そのユニークな演出は、それぞれの領域の著名人である出演者の私生活を彷彿とさせる。

 巷で売られている『無窮動』の海賊版DVDには「中国版『デスパレードな妻たち』」、「私の夫に手を出したのは誰? 陳凱歌の前妻が過去を語る」との売り文句が踊る。洪晃氏は講演で雑誌やブログなど中国の活字メディアに対する問題を語った。

 「中国のメディアは多く見積もっても2割しか信用できない」「無責任な情報が多すぎる」「プロパガンダばかりで、正確なインフォメーションを持たない」……。

 歯に衣を着せず、誰もが納得する具体例を挙げつつメディアを斬っていく様は実に爽快だ。聴衆に体温が伝わりそうな距離で語った約2時間の講演を、洪晃氏は「メディアの問題はわれわれ読者の責任。編集者、記者に欠けてはならないのは何よりも職業道徳」と結ぶ。

 受ける側と作る側の責任。作る側の顔やキャラクターがとりわけ身近に感じられるようになりつつある最近の傾向は、さまざまな問題を抱える中国メディアに携わる人々の、職業道徳と責任を背負おうという、新たな決意のあらわれなのではないかと思われてならない。

 (在北京フリーランスライター、翻訳家)

 いずみ・きょうか 1971年、東京生まれ。94年にフェリス女学院大学卒業後、北京大学に留学。博報堂北京事務所に勤務の後、フリーランスに。現在、北京を拠点にライターとしての活動のほか、翻訳など幅広く活躍している。主な訳書に『衛慧(ウェイフェイ)みたいにクレイジー』『ブッダと結婚』(ともに講談社)、『水煮 三国志』(JMAM)がある。