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【6】(2005年12月27日付)
テレビドラマに新風を吹き込む |
「こんなイケメンの日本鬼子は初めて!」とは昨年末、中国中央電視台で放映された抗日ドラマ「記憶の証明」を見た20代女性の感想。「日本鬼子」とは旧日本軍人を指す蔑称だ。
子供のころから映画やドラマでステレオタイプの日本軍人を見慣れていた彼女にとって「日本の軍服=日本鬼子」であり、悪役であるはずのその俳優を見つめ、ため息をついた後でその名前を知ると、「ああ、彼が矢野浩二なのね」と微笑んだ。
矢野浩二さんは今、中国で老若男女を問わず一番親しまれている日本人俳優である。これまでに出演したテレビドラマは10本以上。20話から30話に及ぶ連続ドラマでほとんど出ずっぱりの準主役を務める。今年は「反ファシスト戦争勝利60周年」と銘打って例年になく抗日ドラマが数多く放送されたこともあり、矢野さんの知名度もさらに高まった。
ドラマだけでなく、バラエティー番組や、ラジオ番組のゲスト出演なども精力的にこなす。ネット上には中国人ファンが立ち上げたファンクラブや掲示板がいくつも登場している。多くの固定ファンがいるのは、ファンレターに一つ一つ手書きで返事を書いたり、交流会を開いて直接話をする機会をつくったり、ファンとのつながりをとても大切にする誠意と努力の結果だろう。
紛う事なき悪役「日本鬼子」を演じているにもかかわらず、その表情から伝わってくる人間味に、中国人視聴者たちはその役柄を超えて一人の日本人俳優・矢野浩二を見つめている。
そんな矢野さんが今後、演じたいと考えているのは「中国人役」。「別の民族を演じることは、同じアジア人であっても言葉以外に表現の部分でやはり違う部分はあると思います。中国人の目線から何か新しい発見を見つけたい」
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「宮崎医生!」。天津から北京への汽車の中、隣に乗り合わせた女の子と話していると、ふいに顔をまじまじと見つめられ、出演したドラマの役名で呼ばれたというのは、武藤美幸さん。やはり「記憶の証明」に出演、女医役を演じた。
これまで中国での出演作品は抗日がテーマの歴史ものが主だったが、現在撮影中の「幸福広場」は初めての現代もので、「念願の喜劇」だ。役名は「武藤美幸」そのままの、主役ファミリーの隣人として準レギュラーで登場する日本人留学生役だ。ほとんど書きあがっていた台本には本来なかった役柄だったが、「中国で生活する日本人女優・武藤美幸」の存在に惚れこんだディレクターが新たに書き加えた。
「幸福広場」は明年、1話30分、200話以上を約1年間にわたって、中国中央電視台ほか全国108のテレビ局で同時に放映予定。
一般に、すべて撮影を終えてから一挙に放送する中国のテレビドラマには珍しく、日本のように撮影の進行中に放映をスタートする。視聴者の反応次第で出演者の露出度やストーリーが変わることになる実験作でもあり、話題作となるのは間違いない。
「楽しみながら演じています。“日本人”が中国で暮らすことによって生じるカルチャーギャップや、中国語の理解不足による誤解や矛盾など、私が出演することによって描ける笑いはたくさんあると思う。監督と話し合いながら面白いものをつくっていきたい。私を通じて、笑いを通じて、“今の日本”を伝えられたら嬉しい」
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矢野さんも武藤さんも中国の事務所に所属。仕事は事務所の紹介のほか、撮影現場や生活の中で知り合った中国の人々からの誘いがほとんどだという。
かつて高倉健、山口百恵のとりこになった中国の人々が今、夢中になっている中国発の日本人俳優。香港、台湾、韓国、そして日本の話題作があふれる中、中国本土のテレビドラマに新しい息吹を吹き込む存在として引っ張りだこの、矢野さんや武藤さんの肩にかかる期待は計り知れない。今後、中国のテレビドラマが、どう発展していくかのバロメーターとしても、じっくり見守っていく価値のある日本人俳優の活躍だ。
(在北京フリーランスライター、翻訳家)
いずみ・きょうか 1971年、東京生まれ。94年にフェリス女学院大学卒業後、北京大学に留学。博報堂北京事務所に勤務の後、フリーランスに。現在、北京を拠点にライターとしての活動のほか、翻訳など幅広く活躍している。主な訳書に『衛慧(ウェイフェイ)みたいにクレイジー』『ブッダと結婚』(ともに講談社)、『水煮 三国志』(JMAM)がある。