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(2000年2月1日付)
一九九八年十二月、アメリカ法務省の麻薬取締局(DEA)が、フロリダにある麻 薬組織の関係者宅を捜索した際、一台のパソコンを押収した。取引相手の名簿でも見 つかれば、と考えていた捜査担当者は、パソコン内のデータを調べて驚いた。麻薬生 産地コロンビアと輸送中継地メキシコ、そして消費地であるアメリカを結ぶ、これま で知られていなかった、コカインやヘロインの流通ネットワークが存在することが分 かったからだ。
彼らが扱っていた麻薬の量は年間三百トン。米当局はそれまで、コロンビアからア メリカへの麻薬流入について、大小二百ほどの組織が、年間に三百五十トンを持ち込 んでいると概算していた。だが、たった一つの組織だけで、全組織の合計に匹敵する 量を運んでいることが分かり、DEAは急いで流入量の概算値を上方修正せねばなら なかった。
それまでコロンビアの麻薬組織といえば、日本の暴力団と似た、上意下達型の組織 だった。メデジン・カルテルやカリ・カルテルが有名だが、いずれも強力な指導力を 持ったボスが全権を握り、末端の関係者でも、自分がどの組織と取引しているか知っ ていた。頂点のボスは国会議員をしのぐ権力を持ち、捕まっても牢獄に持ち込んだ携 帯電話から指令を出し、取り締まろうとする警察幹部や裁判官を暗殺した。
一方、新顔の組織は、原料であるコカの生産、加工、港への陸送、コロンビアから メキシコへの海運、メキシコからアメリカへの国境突破など、流通の各段階が、それ ぞれ自律的に運営されている。リーダーはいるが、すべてを把握しているわけではな く、インターネットを使って「商品」の流れを把握し、全体がスムーズに運営される よう、目配りするだけである。
旧来のカルテルが「親分・子分関係」あるいは「軍隊型」であるなら、新組織は 「発注・受注関係」あるいは、中心のない緩やかなつながりという意味で「インター ネット型」だといえる。「(犯罪の)専門家集団ネットワーク」とも呼べるだろう。
旧組織は、慈善事業にも手を出す一方、コロンビアの人々の「反政府」「反米」の 意識を利用して政府と対立しつつ、左右の政治対立の中では右派と結びつくなど、冷 戦時代を生き抜く戦略として、政治色の強い存在だった。これに対して新組織は、当 局と表立って張り合わず、なるべく目立たないように活動する。コロンビアの麻薬生 産地である山岳地帯には、右派ゲリラと左派ゲリラの地域があるが、新組織はイデオ ロギーに関係なくビジネスライクに取引し、右派のみと結託した旧組織より、取引量 も多くなった。
コロンビアに対しては、自国に蔓延する麻薬に手を焼いたアメリカ政府が、一九九 三年ごろから麻薬組織撲滅のための支援を強化した結果、旧来のカルテルの多くが力 を失った。だが、その後もアメリカの麻薬需要は減らず、その需要に応えるため、旧 組織が減退した空白を埋める形で、新組織が拡大した。旧組織は上層部を潰せば崩壊 するが、新組織はリーダーを捕まえても壊滅せず、取り締まりも難しい。
同様の変化は、世界のいたるところで起きている。たとえば、北アイルランドのゲ リラ組織「IRA」は、イギリス当局の検挙を逃れるため、八〇年代にはすでに、分 散型の組織になっていた。ここ二年ほど、アメリカの在外施設を標的に爆破テロを繰 り返しているイスラム原理主義組織も、中小グループがゆるやかにつながっているだ けだ。
このような形の世界を「Web(ウェブ=蜘蛛の巣)」と名づけようと思う。We bは、蜘蛛の巣のように網の目状につながっている、インターネットのホームページ を表す言葉として知られるが、インターネットだけでなく、世界のさまざまな分野 で、似たような蜘蛛の巣状態のネットワークが広がり始めている。
こうした世界の変化を知る道具として、インターネットはうってつけだ。私は、イ ンターネットで世界情勢に関する英文ニュースなどを集めて分析し、電子メールで約 十六万人に配信するのを本業としているが、かつては大手の報道機関にしかできなか ったこうした事業が、今や個人でも可能になっていることも、Web化する世界を象 徴しているといえる。