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新アジアの潮流

連載コラム
「新アジアの潮流」
石丸次郎・アジアプレス大阪オフィス代表

【16】

6者協議、北朝鮮の恫喝は体制危機の反映


(2003年9月2日付)

 「6者協議だ、核問題だと騒いでいるけれど、私たち庶民は毎日どうやって食べていくのか何より深刻なんです」――8月末、中国を取材中だった私に、北朝鮮北部のある都市から越境してきたばかりの政府中級職員がこう言った。

 この折、北京では北朝鮮の核開発をめぐる6者協議が始まっていたのだが、北朝鮮内部でもこの1カ月間、核問題と6者協議をめぐって頻繁に官営メディアでの宣伝、職場や地域の集会での講習が行われていたという。だが、今年に入り民衆の生活は悪化の一途を辿り、大部分の人々の関心は「いかに生きていくか」に尽きると、その越境者は言うのだった。

 その6者協議の成果は、各国が自国の立場を説明し、今後も協議を続けることに合意した程度にとどまったようである。

 今年はじめに囁かれていた「今秋にも米国による軍事行動がありうる」という事態は避けられたものの、北朝鮮の核開発完全放棄への道筋は、いまだ何も示されることはなかった。

 それにしても、人口2000万人に過ぎないアジア最貧国の北朝鮮が、日韓中米ロという大国をテーブルにつかせたことは、国際関係の常識からいえば特別な事態である。北朝鮮が核兵器という極めて危険な道具を恫喝に使ってきた「成果」だと言える。

 しかし、この数年間だけを見ても、国際的孤立は打開できないままだし、対外依存の強い経済は、改革に踏み出すことができずますます自立とは逆に物乞い的に体質を深めて惨憺たる状況だ。

 ほとんどの職場は仕事もなく給与は未払い状態が今年の初めから続いているうえ、食糧配給も軍警と重要機関を除けばほとんどない状態だ。90年代後半に100万人単位の餓死者を出した大飢饉の再来さえ囁かれ出しているのだ。

 そのうえ外部情報の流入によって、国民の「忠誠心」は目に見えて希薄化している。いちかばちかの核騒動を起こさなければならないほど、金正日体制の危機は深まっていると見るべきだろう。