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(2003年6月3日付)
ムードに流されて交渉の機会を逸するな |
米国によるイラク攻撃が、世界的非難を浴びつつも終了した。今年下半期の東アジアの、そして日本外交の最大の懸案事項が、北朝鮮問題になるのは間違いなさそうである。その北朝鮮に対する強硬な対応と、もの言いが最近目だって増えてきている。
例えば、6月9日に新潟に入港が予定される貨客船・万景峰号など北朝鮮船舶への監視強化、経済制裁の要件を、「新たな国連決議か多国間の合意が必要」から「2国間の合意でも可能」とする外為法解釈の変更。5月下旬の小泉―ブッシュ会談でも、北朝鮮に対して「対話と圧力」で臨むことが確認された。
気になるのは、「コメの一粒でも送ろう、国交正常化交渉に早く臨むべし」などと言おうものなら、「売国奴」扱いされかねない雰囲気が蔓延しつつあることだ。「強硬でしかるべし」というムードに流されて、交渉の機会そのものを逸したり、原則を逸脱したりしないか心配だ。
圧力も時には必要であろう。しかし、外交は理念と獲得目標を明確にして、原則をしっかり守って動くことが肝要だ。北朝鮮の何が問題で、それに対して日本の外交はどう対処したらいいのかを考えてみたい。
北朝鮮の現状が日本や周辺国、国際社会にとって憂慮にたえない状況であることは言をまたない。
国際社会の懸念を簡潔に述べると、(1)核兵器の保有を示唆し、ミサイルの製造と拡散を進めていること(2)麻薬密輸、武装工作船派遣などの不良行為(3)劣悪すぎる人権状況、である。日本にとってはさらに、(4)拉致問題がある。いずれも絶対に放置できない緊要な問題なのは言うまでもない。
一方の金正日政権にとっての最大の心配ごとは、米国がイラクのように軍事力によって政権転覆を図ることだ。そして壊滅状態の経済が、やがて体制の秩序を蝕んで、自壊の坂を転がるのではないかと怯えている。
こうして見てくると日本と国際社会の課題は明らかだ。無頼化し荒廃した隣国の振る舞いは周辺国の脅威となっており、人権侵害の程度は人類史上まれに見る酷さである。早く止めさせなければならない。それはつまり、北朝鮮にまともな国になってもらうということにつきる。
言い換えると、北朝鮮が民主化と開放に進んでもらうことは、今や周辺国と北朝鮮国内に住む人々にとって時代の要請なのである。
と同時に、日本外交にとって北朝鮮に対する植民地支配の清算も避けて通れない課題であることを忘れてはならない。ゆえに、対北朝鮮政策は、国交正常化を目指しつつ、北朝鮮を民主化と開放に向かわせるという両面を同時に追求する必要がある。したがって対北朝鮮外交の原則は次のようにあるべきだと私は考えている。
まず、正常化交渉はいつでも無条件に再開する。そして、国交正常化の条件を明示することだ。それは、(1)核兵器開発の全面放棄と査察受け入れ(2)拉致被害者全員の帰国、全容解明被害補償(3)国内の人権状況の改善。この3点が正常化に至る行程の通過点である。
正常化交渉の中では、国交樹立の暁には誠意をもって過去の植民地支配を清算することも明らかにすべきだ。過去の侵略行為を忘れた厚顔無恥な国だと、国際社会から認識されるのは、外交の敗北である。ただし、賠償的性格の資金は、安保リスクが存在する限り、北朝鮮がまともな国になった暁に民主化されたときに支払うほかない。
日本は北朝鮮にとって、唯一多額の資金を導入できる可能性のある国だ。この現実的実利から、北朝鮮は国交正常化を強く望んでいる。その意味でも日本は北朝鮮に変化を促せる重要な位置にあるといえよう。
付け加えるなら、配布の透明性だけを条件とした食糧・医療支援は即時に再開すべきだと思う。独裁者ではなく、民衆に支援を届ける努力を続けたという事実は、北朝鮮が民主化された後、何よりの外交的成果として評価されるだろう。
北朝鮮の行く末に最大の影響を及ぼすのは、今後、米国がいかなる対北朝鮮政策を取るかである。そして現在、米国から聞こえてくる、様々な対北朝鮮アプローチ案には、武力攻撃に踏み切る可能性が排除されていない。まだ時間はある。戦争を回避して外交的解決を目指すために日本外交は動くべきだ。
繰り返しになるが、言葉の勇ましさだけが外交ではない。北朝鮮に対しては、人権人道重視の外交理念を創り、原則を堅持することを提案したい。
いしまる・じろう 1962年、大阪府生まれ。同志社大卒業後、韓国・延世大学等に留学。現在、アジアプレス大阪オフィス代表(ishimaru@asiapress.org)。近著に『北のサラムたち』(インフォバーン)、『北朝鮮難民』(講談社現代新書)など。