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新アジアの潮流

連載コラム
「新アジアの潮流」
石丸次郎・アジアプレス大阪オフィス代表

【9】

国境地帯で“脱北者”を取材して


(2003年4月29日付)

 北京で行われた朝中米3カ国協議の場で、北朝鮮当局はとうとう核兵器保有を認めるに至った。

 なぜ、北朝鮮は核開発をして、エネルギー開発のためという従来の「灰色」の立場をあえて捨てて、核保有宣言にまで突っ走ったのか? 一見、金正日政権はひどく強硬かつ強気の立場を表明したかに見える。だが、これは金政権がそこまで追い詰められている証左だとも取れる。

 ブッシュ米国が国連の賛意が得られなくともイラク政権を武力で打倒するのを見て、おそらく金正日は米国による北朝鮮攻撃も十分に可能性があると、心底恐怖を感じたはずだ。

 中国・ロシアに擦り寄る外交努力や反戦世論、韓国内の反米ムードを利用することだけでは、米国の武力攻撃を回避する保証は得られないという判断があったと思われる。

 そこで、核兵器開発をあえて公言することで米国の攻撃に対する抑止力を獲得しようという道を選んだわけだが、しかし、それは米国をさらに強硬策に導くかもしれない「危険なゲーム」であることは間違いない。

 北京での3者会談の数日前まで、私は北朝鮮―中国国境地帯に20日余り滞在して北朝鮮情勢を取材していた。昨夏に続く取材だったが、その間に北朝鮮経済が急速に悪化していることに驚いた。

 あらゆる物資が不足してハイパーインフレが起き、エネルギー難と移動統制の強化で流通が麻痺。さらに構造的農業不振、国際社会からの食糧援助の減少によって、今年に入ってとうとう餓死者が出始めている、と中国に越境してきて間もない脱北者たちは口々に言った。

 北朝鮮が核保有公言を選択した一因に、この急速な経済悪化があると私は考えている。油も食糧も欠乏している状況で米軍を撃退するなど不可能だからだ。朝米協議の行く末と共に、北朝鮮内部の混乱が、情勢を動かす変数となる可能性がある。