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新アジアの潮流

連載コラム
「新アジアの潮流」
石丸次郎・アジアプレス大阪オフィス代表

【5】

盧武鉉大統領就任への期待と不安


(2003年3月4日付)

 盧武鉉(ノ・ムヒョン)新大統領の就任式に前後してソウルに滞在した。50代の若い大統領が就任式で語った政策ビジョンは、実に堂々としたものだった。韓国の行くべき進路を、日本の植民地支配、分断の苦難の時代から説き起こし、将来の韓国の発展の道筋を、東北アジアの金融・物流のセンターたるべきと描いてみせた。

 国内課題としては、韓国政治の構造的欠点であった冷戦思考、権威主義(ボス政治)、地域主義から脱却するために「統合、改革と均衡型発展」を唱えた。

 就任演説を一緒にテレビで聴いた40代の韓国人ジャーナリストは「韓国の政治・社会システムが変わらなければならないのはほとんどの人の共通認識。『改革』が旗印の盧新政権に大いに期待します。が、40〜50代の若いスタッフが多く、彼らの実務能力が新政権の最大の課題でしょう」と新政権出帆への期待を語った。

 日本から来た私は、あらためて韓国政治、社会の成熟を感じずにはいられなかった。現在の日本の政治家の中で、将来の日本が東アジアの中でどのような役割を果たすべきかという展望を語れる人物がどれだけいるだろうか、と思ったのだ。

 私が韓国を初めて訪れた20年前、大統領はクーデターで政権を奪取した元将軍の全斗煥(チョン・ドゥファン)氏だった。国内的には民主化を弾圧しつつ、経済は成長至上主義。外交的には日米との軍事的結びつきを強めて北朝鮮とソ連・中国に当たることを優先した。

 民主化デモの学生が機動隊に半殺しにされているのを見たこともあった。著しい経済成長の一方で、韓国社会のムードは今と比較にならないほど暗かった。

 その全斗煥氏はじめ、金泳三(キム・ヨンサム)氏、盧泰愚(ノ・テウ)氏ら歴代元大統領らが盧新大統領就任式に参席していた。支持率急落の果てに5年の任期を終えた金大中(キム・デジュン)前大統領も式場に現れた。大統領府を去るかつての民主化運動のシンボルについて、翌日の韓国メディアの扱いは寂しいほどに小さかった。

 それは言い換えれば、あの金大中氏さえ古い政治家のシンボルになってしまっている、韓国社会の成熟の早さを物語っているのだ。