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アジアの潮流

連載コラム
「アジアの潮流」

【23=完 ワイド版】


東アジアで“メディア革命”が爆発

(アジアプレス代表・野中章弘)

(2002年12月17日付)


巨大なデジタル市場が出現しつつある



携帯電話・インターネット、最前線は中国

 東アジアではすさまじい勢いで「メディア革命」が進行中である。携帯電話の爆発的普及、国際衛星放送の影響力の増大、インターネット人口の急速な拡大など、ここ10年のメディアをめぐる変化は「革命」という言葉以外に適切な用語を知らない。

 ただ革命の行く末はまだわからない。メディア革命が社会にもたらすものは何か、その功罪を見極めることは難しい。いま言えることは「メディアとアジア社会の変容」という座標軸はアジア各地で生起しつつある、さまざまな変化の底流を読み解くうえでもっとも有効な視点を提供しているということだ。

 現在のところ、メディア革命の最前線は中国である。中国では携帯電話もインターネットも、ほんの数年前までユーザーは一部の都市生活者に限られていた。しかし、今や農村の住民もそれらのデジタル・テクノロジーの受益者となり、その普及のスピードには驚くばかりである。

 昨年、東チベットを訪れたとき、高度3、4000メートルの山岳地帯で僧侶たちが携帯電話を持っているのを目撃したことがある。その一帯は車もめったに通らず、ほとんど人家もないような辺境である。電話どころか、電気すら満足に通っていない場所で、人々は携帯電話を使い始めたのである。

 私の雇ったチベット人運転手なども、運転中であれ、食事中であれ、ひっきりなしに着信音が鳴っていた。一日の使用回数は東京人なみである。チベットでは隣村に行くのでさえ、馬やロバに乗って数時間もかかるほど辺鄙な地域も多い。携帯電話の登場はこのような地理上の距離感を消滅させ、伝統的な共同体のコミュニケーション環境を劇的に変化させようとしている。

国家の情報統制に風穴を開ける国際衛星TV

 電柱を立て電話線を引くという労力とカネを省ける携帯電話は、投資効率も高く、固定電話の時期を経ないまま、中国の農村部を一気に携帯電話の時代に引きずり込んでしまった。ちなみに中国の携帯電話保有台数は2億台に迫っており、世界最大の携帯電話市場を形成している。北京、上海など都市部では人口の半数以上が携帯電話ユーザーとなった。

 一方、携帯電話に先行し、放送の分野で中国の人々に多大な影響力を与えていたのは、スターTVに象徴される国際衛星テレビである。10年前、香港で放送を始めたスターTVは英語、中国語、ヒンズー語の多言語放送を実現し、パラボラアンテナを設置すれば、中国のどの地域でも視聴可能なテレビとして人気が高い。

 国家に管理されたテレビに飽き足らない中国の人々にとって、スターTVは外から「自由の息吹」を運んでくる窓ともいえる役割を果たしている。以前、チベットの食堂のウエートレスが日本のトレンディードラマの主題歌を口ずさんでいるのを耳にしたことがある。彼女はスターTVで放送される日本製ドラマの大ファンだった。

 中国ばかりでなく、国境を越えるテレビはいたるところで国家の情報統制に風穴を開け始めた。パラボラアンテナさえ付ければ、CNN、BBCなどの24時間英語ニュースをどこでも視聴できる時代となった。衛星放送の発達はアジア社会の情報摂取の流れを激変させたのである。

米国流スタイルを流布する尖兵との批判も

 今年初め、アフガニスタンへ取材に行ったとき、地方の軍閥司令官の家には大きなパラボラアンテナが設置されており、ウルドゥー語、アラビア語など240ものチャンネルを見ることができた。同じ光景を東ティモールの密林で闘う独立派ゲリラの基地でも目撃した。

 国際衛星放送はチベットの山岳地帯であろうと、インドネシアの孤島であろうと、同じ時刻に同じ番組を視聴可能にさせており、これはメディア史上の奇跡といっていい。

 むろん、衛星テレビは米国のライフスタイルを流布させる尖兵とも見られており、時に民族主義者やイスラム原理主義者たちから厳しい批判を浴びることもある。国境を超えるテレビは情報の共有化を促進する一方、一元的価値観のグローバル化という、功罪両面を持つ。

 いずれにせよ、情報のトランスナショナル化という点では、東アジアは世界でももっとも激しい変化の波にさらされている。携帯電話、国際衛星放送に加え、インターネット人口も中国、日本とも五千数百万人に達し、韓国、台湾を合わせると巨大なデジタル市場が出現しつつある。

 メディアは両刃の剣である。いま大切なのは、資本の論理にからめとられることなく、進行する「メディア革命」を生活の質の向上に結びつける知恵だと思う。(アジアプレス代表)


略歴

 野中章弘 のなか・あきひろ 1953年、兵庫県生まれ。関西学院大学卒。これまで主にアジア・アフリカを中心に第三世界の問題を取材。87年10月、報道規制の厳しいアジア諸国のジャーナリストたちのネットワークであるアジアプレス・インターナショナルを設立。著書に『ビデオジャーナリスト入門』など。ビデオ取材に「アジア人間街道スペシャル・イスラムに生きる〜アフガニスタン」(NHK総合)など。