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(2002年4月30日付)
インドが、年間製作本数、800本をゆうに超える世界最大の映画大国と知られるようになったきっかけは、1998年に紹介され大ヒットした「ムトゥ 踊るマハラジャ」(95年)だろう。インド映画といえば、アカデミー賞監督ショトジット・ライ(サタジット・レイ)による「大地のうた」(55年)ほか代表的3部作しか認識されていなかったところへ、大衆映画の主流を知らしめた。
インド映画には大別して3種類がある。ライ作品に代表される高度の芸術性志向のものと、その対極に位置する「ムトゥ」のような、ラブストーリーと勧善懲悪を2本柱にレビューシーンを織りまぜる娯楽映画、そして両者の要素を併せ持つニューシネマだ。
中産階級以上の人々と話していてうっかり娯楽映画を話題にすると「あんなくだらないものを」と顔をしかめられたりする。だが、圧倒的多数の貧困層にとっては唯一ともいえる安価な娯楽であり、権力・財力を持つ者の不正や不公正に打ちのめされる現実を忘れ、自分と似た境遇の主人公が有力者に反撃して自由と愛と富を手にする夢に酔える貴重な機会なのだ。
階級を問わず注目を集め、マスメディアが取り上げてしばしば社会的大論争に至り、国際的にも飛び火するのがニューシネマである。現代史の重要な事件を扱い、ジャーナリスティックな分析をしつつも娯楽性や総合芸術としての特性を損ねない。日本にほとんど紹介されないのが口惜しいほど、知的刺激に富む作品が目立つ。
この連休に公開されるなかでは、ロンドン映画祭など数々の受賞歴を持つ「マッリの種」(98年)が必見である。和平プロセスにあるスリランカの反政府ゲリラLΤΤEによるとされるラジブ・ガンディ首相暗殺事件(91年)に材を取り、自爆テロの実行犯とみなされた少女兵士を追う。
撮影監督出身ならではの映像美にひきつけられるとともに、紛争解決の難しさを考えさせずにはおかない。
(関口千恵・ジャーナリスト)