【Seikyo Media Page】Copyright (C) 1997-2004 by The Seikyo Shimbun.



新アジアの潮流

連載コラム
「新アジアの潮流」=ワイド版

【7】

台湾総統選以後の米中関係に注目


(2004年4月6日付)

根付く台湾人ナショナリズム

北京五輪(08年)後、緊張激化の懸念



飛び交う楽観論と悲観論

 台湾総統選挙で中国の思惑とは裏腹に陳水扁総統が再選された。今後、中台関係がどうなるのか、楽観論、悲観論が飛び交っている。

 アメリカの中国専門家たちの論文を読んだり、米政府当局者たちと話していて気づくのは、彼らの間では、突発事件でもない限り、今直ちに台湾海峡を挟んでなにか起こるわけではないが、4年後の2008年以降は何が起こっても不思議ではない、という見方がかなり定着しているという点だ。

 ご存知の通り、2008年は北京オリンピックの年。それを成功させるために中国はなんとしてでも台湾に対する挑発は避けるだろうが、その後に軍事行動に出たとしてもおかしくない、という分析が米中国問題専門家の間では広がっている。

 一例をあげれば、中国問題研究者のアンドゥルー・ピーターソン氏(ニューヨーク大学法律大学院生)が『ワシントン・クオータリー』(2004年春季号)に寄稿した『Dangerous Games across Taiwan Strait』はそのへんをコンパクトに指摘している。

 同氏は、「陳総統が再選されようとされまいと、台湾人民に根づき始めたナショナリズムはもう後戻りできない。北京オリンピックの時に台湾人民がのけ者にされて、味わうであろう疎外感で、そのナショナリズムは頂点に達するだろう」と予測。

 一方、「胡錦濤政権としても国威高揚のため、なんとしてでもオリンピックを成功させねばならない。そのためには国際世論をおもんぱかって軍部の強硬派を抑えているが、オリンピック以降はその留め金もとれるだろうし、強硬派が暴発してもおかしくない」と診断している。

軍事的に睨み合う台湾海峡

 ピーターソン氏は中国、台湾双方に留学した経験があり、将来を嘱望されている若手中国問題研究者の一人だ。「現状維持派」とは違った切れ味の鋭い分析で頭角をあらわしてきている。

 ピーターソン氏は、さらにこう分析している。

 (1)陳総統の主張する「中国が台湾の現状を武力で変えようと意図した時に、台湾人民は自らの進路を自主的に決定する権利があることを、国民のコンセンサスとして決めておこう」という点で、台湾人民の大半は異口同音に賛成している。

 (2)台湾は経済的にもテクノロジー的にも名実ともに先進国家として成長してしまった。今や中国に投資している。

 (3)その意味では、台湾はすでに「機能的には独立国家」になっているし、今回の選挙結果はそれを再確認したにすぎないが、シンボリックな意味合いは計り知れない。

 (4)それだけに中国の受けたショックも大きく、中国としてもどこかでこうした動きを阻止しないと、国家の長期的な計画すらおぼつかなくなってしまう。

 (5)そうした台湾の動きを本当に中国が阻止しようとしたら、もはや口先外交だけでは駄目になってきた。武力行使しかないのではないか――。

 それを裏付ける動きはいくつもある。中国の国防費は右肩上がりでとまる兆しは全くない。すでに500発以上のミサイルを沿岸地区に配備しており、いつでも台湾に向けて発射できる態勢にある。中国人民解放軍の内部資料には、いかにしたら台湾を効果的に攻撃できるかが堂々と書かれている。

米国に長期的な対中政策不在

 米国務省筋もピーターソン論文をなぞるようにこう指摘している。

 「中国の脅威に備えて台湾も軍事力増強をすべきだと主張する陳水扁総統の再選は、はっきり言って胡錦濤指導部に対する外交的なチャレンジだ。これで台湾海峡の緊張が今後高まるのは間違いないだろう。これまで台湾に対してはソフト路線をとってきた胡錦濤指導部に中国軍部の対台湾強硬派が揺さぶりをかけてくるだろうし、胡錦濤総書記としては、口先では陳批判をしながらも実質的にはなにもしなかったブッシュ米政権への恨みつらみが強まってくるだろう。これ以上、陳水扁総統が台湾人民を扇動しないようもっと動いてくれ、と要求してくるだろう」

 それでアメリカは具体的に何をするのか。ライス大統領補佐官が「中国との建設的な関係は不可欠」といったかと思うと、国務省高官は議会での非公開証言で「台湾は民主主義の機能しているフリー・ネーションだ。自分たちがなにをせねばならないかを台湾人民が自分たちで決めるのは、権利であり責任だ」と中国を刺激する。

 アメリカは今後の台湾海峡の成り行きを懸念しながら、長期的な対中政策が定まっていない。悲観論の根拠は、そんな点にもあるような気がする。(米パシフィック・リサーチ・インスティチュート所長)


 たかはま・たとう 1941年、東京都生まれ。米カリフォルニア大学(バークレイ校)卒。67年、読売新聞社入社。ワシントン特派員、政治部次長等を歴任。95、97年、母校のジャーナリズム大学院客員教授。99年から現職。著書に『日本の戦争責任とは何か』『アメリカ教科書の中の日本』など。