【Seikyo Media Page】Copyright (C) 1997-2001 by The Seikyo Shimbun.



アジアの潮流

連載コラム
「アジアの潮流」 ワイド版

【17】


教科書問題、靖国参拝、そしてAPEC

首相の東南アジア訪問を待ち受ける難題

対日不信感を克服するために何が必要か

(2001年9月4日付)

 2008年北京五輪の受注競争で日本は苦戦

 2008年、念願のオリンピック誘致が決まった中国北京では、すでにそれに向けた準備が着々と進んでいる。いわゆる“オリンピック特需”で、世界中の名だたる企業が各プロジェクトをめぐって、熾烈な受注合戦を繰り広げている。

 そんな中、過去の経緯と実績から、まず日本企業の受注は間違いないと見られていた映像機器について、日本企業への発注がストップしているという。関係者の間では、「首相の靖国参拝が影響しているのでは」との見方がもっぱらである。

 中国にとって、オリンピックの開催は、中華文明の復興を象徴する国家的イベントである。その裏には、近代100年にわたって半ば植民地とされた歴史と、中国共産党によって独立が成し遂げられたという歴史認識が横たわっている。「靖国問題」は、この歴史認識にまっ向から抗うようにしか見えない。

 10月、上海で開催されるAPEC(アジア太平洋経済協力会議)において、「中国の国家元首と日本の首相との個別会見がなされない可能性もある」(香港『明報』)との観測記事が出たり、「上海は国際会議なので致し方ないが、政治の中心である北京に招くことはない」と断言する関係者の声も聞こえてくる。「靖国問題」はけっして一過性の“話題”ではなく、その影響はこれからひた寄せてくる。

 中国だけではない。教科書、靖国と続いた日本の右傾化の兆候に、即座に警告を発するアジア諸国は数知れない。 

 韓国、北朝鮮、マレーシア…も続々非難

 お隣の韓国の猛烈な反発は記憶にまだ新しい。日本の植民地支配からの解放を記念する「光復節」の記念演説で、韓国の金大中大統領はこう切々と訴えた。

 「われわれ民族に及ぼした数多い加害の事実を忘れたり、無視しようとする人たちと、どうして良い友人になれるか、どうして未来を安心してともに生きていけるのか、というのが韓国国民の心情だ」

 また、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)からも、非難の声が上がった。「日本の最高当局者が靖国神社を参拝したことは、日本当局が軍国主義の思想・精神的な代表者であることを公式に示したことに違いない」(『朝鮮中央通信』)。

 さらに、30の華人団体が日本の「新しい教科書をつくる会」による歴史教科書に対して、反対する署名運動を展開したマレーシアでは、8月15日、小泉首相の靖国神社参拝に抗議する座り込みが行われた。同日、クアラルンプール共同墓地で開催された、第二次世界大戦中の華人戦没者慰霊祭に出席した閣僚からは、「軍国主義への不安がある。参拝を前倒ししたこと自体、その行為のネガティブさを表している」と意見を表明している。

 また、「靖国参拝」への理解を求めてアジア各国を歴訪した山崎自民党幹事長と会談したシンガポールのリー・シェンロン副首相からも、「近隣諸国との信頼関係を築くため、ドイツのように戦争の歴史を早く清算すべき」との考えを伝えられている。

 9月末に予定されている小泉首相の東南アジア訪問に、大きな難題が突きつけられているのは間違いない。

 脱「過去の過ちを認めようとしない国」へ

 空恐ろしいのは、こうした「過去の過ちを認めようとしない日本」というイメージが後世にも語り継がれていくことだ。かつて、中国の知人からこんな話を聞かされたことがある。その友人の親戚の中学生が修学旅行で初めて日本を訪れたときのことである。自由行動の時間を使って東京の繁華街を散策した中学生に感想を求めたところ、思いもかけない反応が返ってきたというのだ。

 どこか寂しそうな表情の中学生は、「あまり面白くなかった」と下を向く。沈黙の後には、「だって、周りの日本人がみな僕をばかにしているように見えるんだもの…」。日本滞在歴の長い私の友人は、「そんなことないよ。思い過ごしだよ」と懸命に訴えたというが、中学生の不信の目は変わらなかったようだ。

 中国では、日本のイメージとアメリカのそれではだいぶ異なる。アメリカについては、嫌米派と親米派が好きなように論評するのに対して、対日観では、優れた家電製品と「過去の過ちを認めようとしない国」との両極端のイメージしかない。アメリカほどのバラエティーに富んだ論陣がない。

 それは、とりわけ青年層に顕著である。政府機関やマスコミの調査では、8、9割が日本に否定的な感情を抱いていると言われる。だが、朝日新聞が行った日本語を勉強する学生を対象としたアンケート調査では、約6割の学生が日本に親しみを感じているとの結果となった。しかも、長い間、日本語を学んでいる学生ほど「親しみ」の度合いが強いという(劉傑著『中国人の歴史観』より)。

 過去を直視せずして未来は築けないことは自明であろう。そこへ精力を注ぎながら、草の根での交流をより長く、より深く継続していくことにしか、近隣アジア諸国との本当の友好関係は構築できない。そして、それなしには日本の改革も成し遂げられないことを知るべきだろう。(ジャーナリスト)


略歴  にしだ・まこと 1962年、東京都生まれ。慶応大学経済学部卒。現在、『週刊東洋経済』副編集長として国内マクロ経済、アジアなど海外経済を担当。著書に『人民元・日本侵食』(リヨン社刊)。