![]()
(2001年1月9日付)
21世紀が開幕し、アジアは民主主義の“質”が問われる時を迎えた。1997年 のアジア通貨危機から政治危機へと進んだ同地域はいま、新たな“国のかたち”を求 めて産みの苦しみの渦中にある。だがそれは、声なき声の表出、すなわち恵まれない 立場に陥ってしまった人々に対して、発言権を保障する民主主義の芽生えとも解釈で きる。
昨年末に東京で出会ったケンブリッジ大学教授のアマルティア・セン氏は、細身の 体躯(たいく)を前かがみさせながら、こう語った。「人間の自由こそが決定的に重 要である。それは民主主義と完全に一致する」と。また、「(危機に対して発言が許 される)民主主義国家に飢饉(ききん)はない」とも訴えることを忘れない。
アジア人として初めてノーベル経済学賞を受賞(98年)。家どうしの親交があっ たタゴールから、「永遠なるもの」を意味する「アマルティア」と命名されたセン少 年は、9歳のときに故郷・ベンガルの大飢饉に遭遇し経済学を志した。外国生活が長 いにもかかわらず、今もインド国籍を持ち続けている。
「経済成長と民主主義は相矛盾することはない」――。氏の信念にも似た開発理論 は、故郷インドをして、21世紀に最も注目されるアジア最大の民主主義国家として 台頭せしめた。その原動力は、放縦な自由を律する責任ある「参加」である。
インドでは今、1州から始まった住民参加による公立病院の運営改善が成功し、瞬 (またた)く間に全国に広まっているという。その中心者・モハンティさんは、「 人々は本質的に自助の精神を持っている。良い統治とは介入せずに自助のやり方を示 すことだ」と強調する。過去の成功を否定するばかりではなく、新たな価値を生み出 す試練。日本にも共通したアジアの挑戦である。
(西田実仁・ジャーナリスト)