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寄稿論文

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都知事「三国人」発言の扇動性とマスコミ
ジャーナリスト 関口千恵

(2000年5月23日付)


批判力の弱さは発表ジャーナリズムに起因

「人種差別撤廃条約」違反ではないか





“不法滞在外国人”へのバッシング相次ぐ

 石原慎太郎東京都知事のいわゆる「三国人」発言の第一報を聞いて、私が思ったこ とは三つある。

 まず表現はどうあれ、すべての外国人に向けられたものと解すべきだが、とりわけ 念頭に置かれているのは不法状態に追いやられているニューカマー(特に一九八○年 代以降に来日したアジアほか第三世界の出身者)だということ。

 第二に、“不法滞在外国人犯罪の増加・凶悪化”の指摘はもっともだと追随する記 事が続出するだろうということ。これと合わせて、日本政府も一九九五年に批准した 国連・人種差別撤廃条約に照らし、都知事は人種・民族差別の助長・扇動の罪で裁か れるべきではないかということだ。

 この間の関連報道を見る限り、予想したとおりである。「三国人」表現には賛否が 分かれるものの、“不法滞在外国人犯罪の増加・凶悪化”に対して、メディアとして まともに批判・反論したものは皆無だ。

 『週刊大衆』(五月八・十五日号)の首都圏の車内吊り広告は、通常の二倍の大き さで「東京に潜む不法滞在外国人の恐るべき犯罪激流」と最大級の活字で打った。 『週刊ポスト』(四月二十八日号)はオーバーステイ(不法残留)や不法入国の外国 人ばかりか、その子どもまで潜在的凶悪犯罪者扱い。『アエラ』(四月二十四日号) は「時代の気分を汲む力は天才的だ」(福田和也慶応大学助教授)、「乱暴だけど何 か変えてくれそうな石原知事に(注・都民から寄せられた声のうち)七五%の支持が あった、という方が期待がもてそうな気が、僕はします」(コラムニストの泉麻人) などと語らせている。

実際の犯罪は過去5年間、横ばいだ

 そもそも、毎日新聞が全文掲載(四月十三日・十四日付)した、十二日に都庁で行 われた記者会見からして情けないものだった。「三国人」をめぐり、都知事の高圧的 な詭弁(きべん)に延々と振り回されたうえ、“不法滞在外国人犯罪の増加・凶悪 化”の具体的根拠は全く質(ただ)していない。

 都知事がまともに応じれば、警視庁統計や「警察白書」「犯罪白書」を出してきた だろう。ここでまず注意すべきは、統計は検挙数であって有罪確定数ではないこと、 凶悪犯罪は同一人による複数犯が増えていること、犯罪のなかには具体的に人を傷つ ける行為ではないオーバーステイや不法入国が高い比率を占めていること、などであ る。

 三月二十八日付本欄に書いたように、私の配偶者はバングラデシュ人のニューカマ ーで、都知事が言うところの元“犯罪者”(=入管〈法務省入国管理局〉により一方 的に在留資格更新を拒否されオーバーステイに追いやられた者)であり、私は現役 “犯罪者”(=人手不足の業界を支える、オーバーステイの外国人労働者)の支援を している。法制度をはじめ、外国人を不法状態に追いやる構造的な問題が広く社会的 に存在することが、忘れられてはならない。

 東京都の不法滞在外国人による凶悪犯罪検挙人員数の比率は、過去5年間4.8% と横ばいである。日本全体のそれも、この傾向は同じだ。かりにも報道機関であれ ば、これらを事前に検証し、記者会見で突くべきであった。

 なぜそうならなかったかといえば、日ごろから警察発表や入管発表べったりなだけ に、疑問を呈する必要すら感じなかったのだろう。施行されたばかりの出入国管理及 び難民認定法(二月十八日)と外国人登録法(四月一日)が、外国人管理をますます 強めたことを把握できないのと同根の問題だ。これは、私が外国人報道を意識的に検 証してきた過去十二年余り感じてきたことである。そういう記事ばかり読まされる市 民の多数が、都知事支持と聞いても、意外には感じない。

偏見を助長したメディアも裁かれるべき

 とはいえ、都知事発言の支持者は、それが何を意味するか、本当に自覚しているの だろうか。思い出されるのは、九三年に警視庁が行なった代々木公園の取り締まり だ。ヘルメットと盾で身を固めた機動隊員が表参道から駆け込むやいなや、イラン人 とおぼしき外国人を片端から検挙した。外国人登録証や旅券をあらためる気配すらな かった。

 配偶者がもし居合わせたら、やはり問答無用で引きずられたに違いない。万一、自 衛隊の治安出動など起きようものなら、最初に銃口を向けられる一人にも彼はなるだ ろう。評論家の山崎正和氏が『論座』六月号で「都知事の『三国人』脅威論、および それに関連した『自衛隊治安出動発言』を読んで、私はあまり実際的な脅威は感じて いない」と書くが、私などは脅威を感じないどころではない。

 批准によって日本法となっている人種差別撤廃条約。その最も要(かなめ)である 四条は、あらゆる差別や扇動を処罰すべき犯罪と認定・宣言するよう特に求める。う ち私人の行為に関する部分につき、政府は表現の自由(憲法二一条)を盾に留保をつ けた。しかし条約の主旨からすれば、都知事に追随したメディアは裁かれるのが筋で ある。まして都知事は、私人にさえそれだけ厳しい姿勢でのぞむ条約を、三十五年も 前に国際社会が約したことの意味をよくよく認識すべきである。

 四条c項は「国又は地方の公の当局又は機関が人種差別を助長し又は扇動すること を認めない」と定める。都知事の言動は明らかに同項違反の不法行為である。

(ジャーナリスト)

略歴

 せきぐち・ちえ 一九六二年東京生まれ。早稲田大学法学部卒業後、フリーランス に。『法学セミナー』『世界』『週刊金曜日』などの各誌で、内外の人権問題を幅広 くカバー。特に在日外国人の人権については、ボランティアで相談を受けるととも に、地方自治体・法律家団体・市民団体での講演を多数行う。著書に、国際結婚のパ イオニアケースメーキング体験をつづった『在留特別許可』(配偶者との共著、明石 書店)など。