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寄稿論文

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国連ミレニアム報告の米国へのメッセージ
渡部恒雄・CSIS〈戦略国際問題研究所〉研究員

(2000年5月9日付)


アナン総長の“野心”に好意的なマスコミ

「国連語」を米議会に分かり易く“翻訳”と





国連嫌いの保守派にもアピールする内容に

 今年九月に開かれる「国連ミレニアムサミット」へ向けて、アナン国連事務総長か ら野心的な「ミレニアム報告書」が提出された。この報告書は、議会を中心にして国 連に批判的なアメリカに向けてのメッセージが多く含まれている。

 アメリカのリベラルな新聞では、「ミレニアム報告書」はおおむね好意的に捉えら れている。

 まず国連本部のお膝元、ニューヨーク・タイムズ紙は、四月九日の社説で「ばかば かしいほど野心的(absurdly ambitious)」というアナン氏自身 の言葉を引用して、しかし、その内容は世界が広く耳を傾けるべきものと評価し、ク リントン政権に対し、報告書の提案である最貧国からの輸入障壁の撤廃や債務の免除 への喚起(かんき)を促している。

 ニューヨーク・タイムズ紙の論調は全米の中でもリベラルなものであり、やや保守 的なワシントン・ポスト紙では、報告の内容を報じるに止まっているが、決して否定 的なとらえ方ではなかった。

 クリスチャン・サイエンスモニター紙は、四月六日の社説で、アナン氏は過去の空 想的で大風呂敷な国連の間違いを回避し、アメリカの用語「smart sanctions(上手な制裁)」 などの言葉使いで、国連語を、懐疑的な米議会に理解で きるように翻訳していると評している。

 その指摘のとおり、アメリカの国連に対する懐疑の多くは、アメリカの主権を優先 させる現実主義的外交を旨とする議会保守派から発せられており、特に国連嫌いで有 名なヘルムズ上院外交委員長を中心にした共和党主導の議会が、政府の国連分担金の 支払い要求を却下してきているのである。

ワシントンDCの政策コミュニティーの動きと即応

 アナン国連事務総長はアメリカで大学教育を受けた知米派である。前ガリ事務総長 が、アメリカとは対立的で、最終的にはその座をアメリカにひきずりおろされた後 に、アメリカの了承のもとに事務総長となった。したがって、この報告書のアメリカ に対するメッセージは、実に工夫されている。

 例えば、現在のアメリカにおける好調な経済を支える情報通信(IT)革命を決し て否定的に捉えずに、インターネットを活用して途上国の貧困を撲滅するための、ピ ースコワ(=ケネディ大統領が組識した平和部隊)のようなボランティアを提案した り、世界におけるオープンなビジネスと貿易を提唱している。

 これは、従来の国連や開発経済学で強かった資本主義に批判的、あるいは抑制的な 立場とは趣(おもむき)を異にし、アメリカの自由経済の価値観が受け入れやすい内 容となっている。

 また効果的な経済制裁の提案も、実にタイムリーだ。アメリカ国内では、人道上の 観点に加え、ビジネス上の利益の点からも今までの制裁政策を見直し、より効果的な 経済制裁への気運が、ワシントンにおける議会と政府を中心とするシンクタンク、大 学などの政策コミュニティーの中で広がっている最中なのである。

 国連の機構改革に一つの項目が割かれているのも、アメリカの議会へのアピールと 読むことができる。ヘルムズ上院外交委員長の発しているアメリカの国連分担金の完 全支払いの条件が、官僚的で無駄な出費を削減するための国連の機構改革だからであ る。

 しかも、アナン氏はアメリカの立場に沿うばかりではなく、国連の予算が決して法 外に高いわけではないということも、国連事務局の中心的な運営費が年間十二・五億 ドルで、それはニューヨーク市の年度予算の四%であるという例をあげ、アメリカに アピールしている。(ちなみに、同予算は東京都の消防活動の年間予算より十億ドル 安いという日本向けメッセージもある)

日本は理念とともに現実政治の実態をつかめ

 さて、このようなアメリカ向けメッセージの現実的なアピール度であるが、私は、 非常に耳に届きやすい、いいタイミングで発せられていると思う。

 第一に、アメリカの世界に展開する軍隊のオペレーション(活動)は、財政的にも 精神的にも限度に達しており、アメリカは、世界に対する政治的影響は残したいが、 なるべくその活動を国連や同盟国に肩代わりしてほしいとも考えている。昨年のコソ ボ空爆を見ても、アメリカは政治的に最も効果的で安上がりな空爆主導の後は、残り の作業をNATOと国連に任せて、深入りを避けている。現実主義的観点からして も、自国の安全保障上、国連の利用価値は今後のアメリカにとって高まりこそすれ、 低まることはないのである。

 第二に、バブル経済に踊るアメリカ社会内のリベラル派、良識派からは、国内外と もに、拡大する貧富の差にたいする本質的な不安と不満がかなり溜(た)まってお り、世界の貧富の差に際する喚起は、実にいいタイミングとなる。(日本の経験から いっても、もしバブルがつぶれたら国内対策で手いっぱいで国連どころではなくな る)

 日本が学ぶべきことは、国連が追求する理念的意義と国連の枠組みの正当性を利用 しようとする各国の現実政治の両方の理解である。なんといっても、日本は国連の第 二の資金供出国であり、アメリカの重要な同盟パートナーなのである。日本はアメリ カの対国連政策も視野にいれながら、安保理改革や平和維持活動の進展などに対し、 多面的で戦略的な政策構想により、国連の改革、発展に寄与していく大きな機会と責 任がある。

(CSIS〈戦略国際問題研究所〉研究員)

略歴

 わたなべ・つねお 1963年福島県生まれ。東北大学歯学部卒。米国ニュースク ール・フォー・ソーシャルリサーチで政治学修士号取得。現在、ワシントンDCの有 力シンクタンクにおいてアジアの安全保障と日本政治の研究に携わる。論文「シビル ミリタリー関係の向上で空気支配を防げ」で第三回読売論壇新人賞の佳作入選。