
(2000年5月2日付)
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9月、21世紀の諸問題テーマに国連サミット 安全保障、南北格差など地球的な課題扱う |
二〇〇〇年九月六日から八日まで、ニューヨークの国連本部に百八十八の加盟国の 指導者が集まり、「国連ミレニアム・サミット」が開催される。
このサミットの課題は、二十一世紀の諸問題への国連の対処を検討することであ り、そのたたき台としてアナン国連事務総長が四月三日に「ミレニアム報告書」を発 表した。(全文は、http://www.un.org/millennium/sg/report/full.htmに掲載)
この報告書によると、二十一世紀に世界が直面する最大の課題はグローバリゼーシ ョンをさらに進めながら、その恩恵を全世界に均等に行きわたるようにすることであ る。
一見逆説的なことだがこの課題に対処するためには、国家の消滅ではなくその統治 能力を高めることが必要だとアナン氏は主張する。二十一世紀に各国家に求められる のは、国内社会の統治責任および共通のルールと価値観に基づいた国際組織内で協調 するという二つの役割を果たすことである。
アナン氏はグローバリゼーションという大きなテーマの下に「欠乏からの自由」 「恐怖からの自由」「明るい未来」「国連改革」という四つの課題分野を設定してい る。
「欠乏からの自由」の優先課題として、貧困撲滅、若年層の教育・雇用機会創出、 保健衛生の向上とエイズ対策、スラムの解消、アフリカ問題への対処が含まれる。
「恐怖からの自由」では、内戦などで大量殺害に直面した場合、安全保障理事会は 軍事介入する道徳的責任があると言明している。その他、大量破壊兵器、予防外交、 国連平和維持機構強化、経済制裁、軍縮などに焦点をあてている。
「明るい未来」では、主に環境問題を取り上げている。具体的な課題として、温暖 化対策、淡水・飲料水へのアクセス確保と水質汚染対策、遺伝子組み換えテクノロジ ー、および森林・漁業・生物多様性の保護などを扱っている。
「国連改革」では情報革命を積極的に利用し、他の国際機関、民間セクター、NG O(非政府組織)などとの協調を重視している。さらに、安全保障理事会の構成に関 しては、創立当時の権力配分と同盟関係に基づき今日の国際状況を反映していないと 批判している。サミットまでには日本の常任理事国入り問題にも結論が出るかもしれ ない。
アナン氏が使う用語を見れば、国連に対する米国の支援を取りつけたいという意図 がうかがえる。例えば、報告書の正式名称は“We the Peoples"で始 まるが、これはもちろん国連憲章の冒頭の言葉であるとともに、“We the P eople"で始まる米国憲法も念頭に置いているのであろう。「欠乏からの自由」 と「恐怖からの自由」はフランクリン・D・ローズヴェルト大統領の有名な言葉であ る。冷戦後唯一の超大国となった米国への期待は大きい。
ところが、アナン氏は議論の大半を開発途上国における諸問題の解決にあててお り、介護、医療保険、年金などの社会保障問題とも連動した少子高齢化問題、経済構 造改革問題、金融問題、新ガイドラインなど日本を含めた先進諸国が直面する重要問 題にはほとんど言及していない。
二十一世紀に国連が世界貿易機構(WTO)、国際通貨基金(IMF)、世界銀 行、北大西洋条約機構(NATO)、日米同盟などと具体的にどのような協調関係を 築くのかを検討する必要がある。国連は開発途上国を優遇しすぎるという米国の不満 も無視できない。国連が二十一世紀に真の国際組織になるためには開発途上国の問題 だけではなく、先進諸国間の問題にも取り組む必要がある。
情報革命がグローバリゼーションを促進し、政治、社会、経済、軍事部門に大きな 影響を及ぼす。領域によっては民間セクターやNGOが国家を上回る影響力を持って いる。国連がこのような組織と協調態勢を取り、世界中に情報網を張りめぐらすこと で希少資源の効率利用が可能となろう。
アナン氏が情報テクノロジーの普及、保健、災害、雇用などの分野で世界的ネット ワーク構築を提唱しているのは評価できる。情報化社会を生き抜いていくためには、 国家は開放性を維持し、世界情勢の情報収集・分析力を高め、変化に迅速に対応する 能力が必要となる。日本もこの時代の波に乗れるように国家の開放性を大きくし、国 民に情報革命の恩恵を浸透させる政策が必要であろう。
二十世紀は物理学の時代、二十一世紀は生物学の時代と言われるように、昨今生物 学を基礎とした遺伝子工学が注目されている。一九九〇年代に入って、米国の農業経 営者が大規模な商業ベースで遺伝子組み換え作物を利用するようになったが、西欧の NGOなどを中心とした反対運動が功を奏し、米国以外で遺伝子組み換え作物に積極 的に取り組んでいるのはアルゼンチンとカナダだけである。
遺伝子組み換え作物に大規模な投資をすることで、開発途上国の飢餓、貧困、栄養 失調などの問題が解決されるかもしれない。国連が中心となって早急に遺伝子組み換 え作物が環境に与える影響に関する科学的データを蓄積する必要がある。
(大阪外国語大学助教授)
略歴すぎた・よねゆき 1962年大阪府生まれ。大阪外国語大学卒、一橋大学大学院 修了(法学修士)、米国ウィスコンシン大学マディソン校修了(歴史学博士)。主著 に『ヘゲモニーの逆説:アジア太平洋戦争と米国の東アジア政策、1941年〜19 52年』(世界思想社)。