
(2000年3月7日付)
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インターネット活用型が主流に 可能性追求型の社会へ向け高まる機運 |
近年、「遠隔教育(ディスタンス・エデュケーション)」に対する関心が世界中で 高まっている。遠隔教育とは、インターネットや衛星・ケーブル放送、ビデオテー プ、CD―ROMなどの各種メディアを利用して、空間的に離れた場所にいる学習者 に対して教育を施すことであり、学ぶ側からは「遠隔学習」とも呼ばれる。
従来の遠隔教育は、郵便を利用した、いわゆる「通信教育」が主流であったが、一 九九〇年代前半から急速に発達したコンピューターネットワークによって、現在では インターネットによるものが主流となっている。特に米国、英国、豪州においては、 インターネットによる学習者の増加はめざましく、全米で遠隔教育を採用している大 学はすでに五百校を超え、今なお増加し続けている。
この中には、「対面授業」と遠隔授業の両方を実施している大学のほか、キャンパ スを持たない完全なオンライン大学も含まれている。オンライン大学では、教科書の 供給(ダウンロード)からリポート課題の提出(送信)まで、その大半がインターネ ットを通じて行われる。
遠隔授業はコロンビア大学やコーネル大学など、アイビーリーグと呼ばれる伝統校 でも部分的に実施されており、全米最古のハーバード大学においても導入に向けて真 剣な論議が進められている。
遠隔学習の特徴は、時間、場所に拘束されず、仕事や家事、子育てをしながら自分 のペースで勉強できることである。さらに大きなメリットは、旧来の一方通行型の通 信教育と異なり、教える者と学ぶ者がコンピューターで瞬時にやりとりができるこ と、ネット上の掲示板などを使って学生同士も互いに意見交換できることである。
この点では、テレビやラジオを媒体とした「放送教育」よりも、インターネットに よる遠隔教育のほうが格段に優れている。
まさに、このスピードと「対話的学習(インターアクティブ・ラーニング)」こそ が、より多くの受講者を引きつけているのである。
各国の遠隔学習者の大半は社会人や主婦であり、米国のある大学の学生の平均年齢 は四十代である。自分の職場や生活環境を変えずにキャリア・アップを図れる点が、 こうした人たちのニーズに応えている。今や日本にいながらにして海外の大学で勉強 し、博士号まで取得することが可能な世の中なのである。
では、遠隔教育は本当に効果があるのだろうか。これについては多くの調査研究が 行われ、証明されている。例えば、同じ担当教授の同じ科目を対面で受けた学生とイ ンターネットで受けた学生に分け、同じ試験を受けさせた場合、試験の成績はほぼ同 じか、わずかながら遠隔学習者のほうが良いという結果は枚挙にいとまがない。
さらにその最大の要因として、遠隔学習者のほうが通学者よりも、勉学困難な環境 にありながら動機づけ(モチベーション)がしっかりとなされており、意欲が高いと いうことまで明らかにされている。
技術革新の著しい現代では、社会の絶えざる変化に柔軟に対応していくことが求め られている。二十代前半までに修得した知識や技能をもって残りの人生を生きていく ことは最早不可能となった。
一生の間で勉強する期間と、勉強しない期間を分けるのではなく、常に勉強するこ と、つまり生涯学習こそが時代の要請とも言えよう。それは自己実現だけでなく、生 涯を通じて学び得たものを社会に還元していくプロセスでもある。
約百年前の日米において、牧口常三郎とジョン・デューイは、働きながら学び、学 びながら働くことの重要性を訴えた。社会と学校の垣根を低くして、実務を勉学に生 かし、勉学を実務に生かすという発想である。
当時、その対象は子供たちであったが、状況の異なる今日では、この「労学一体」 の理論は児童だけに当てはまるものではなく、むしろ成人にこそ当てはまると言えよ う。米国では二十二歳以下の大学生は全大学生のうち、わずか五人に一人にしか過ぎ ず、学生の高齢化、社会人の学生化が進んでいる。
近い将来、日本でも超高齢化社会の到来は避けられない。何歳になっても自分の可 能性を追求でき、夢を実現することができる社会の構築が模索されている。遠隔教育 の基本は「在宅学習」なので、高齢者や体の不自由な人たちの能力開発を支援するこ とも可能である。
このように遠隔教育は、何らかの事情があって教育への機会が閉ざされていた人た ちに対して、あらためて可能性追求への扉を開くものなのである。
今後、教育に関する機会の拡大は後戻りすることはなく、遠隔教育は二十一世紀の 教育方法の大きな潮流になっていくと考えられる。一刻も早く日本でも遠隔教育が認 知・普及され、「生涯学習型社会」、「可能性追求型社会」の実現に資することを願 ってやまない。(アイ・シー・ネット〈株〉研究員)
略歴たかはし・さとる 1962年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒。日商岩井(株)、国際協力事業 団勤務を経て、ハーバード大学大学院修了。遠隔教育、開発途上国の教育問題専攻。 共著に「Feasibility and Worthwhileness of Distance Education」(北海学園大学開発論集)、「留学必須テスト完全攻略」(アルク)など。