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寄稿論文

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21世紀型のネットワーク・リーダーとは

川上和久
明治学院大学教授

(2000年1月9日付)




多様化、情報化 激変の時代に光る統合力

決定権は国家の意思から市民の意思へ



トップダウンからボトムアップに流れ変わる

 二十一世紀を迎え、社会創造のフロントランナーとなるオピニオン・リーダーのあ り方に、大きな変化が訪れようとしている。

 二十世紀は、いわば、産業の発達と、それをバックアップする国家の意思が社会を 創造した。近代社会の中で生まれたさまざまな組織、そしてその中間集団をリードし ていくオピニオン・リーダーは、より効率よい目標達成のためのリーダーシップの発 揮を求められ、新製品の伝播(でんぱ)に果たす役割などを含めて、きわめて二十世 紀的な産業社会創造に寄与する担い手としての役割が期待されていた。

 しかし、こういった、社会の効率や国家の意思とは別の次元でのリーダーシップが 求められるようになりつつある。オピニオン・リーダーというよりも、むしろネット ワーク・リーダーとでもいうべきリーダーシップである。こういった別の次元でのリ ーダーシップの必要性を生み出した主体自体、産業の発達ではあるが、その背景は三 つに集約される。

 第一は、食欲の充足などの低次の欲求から解放され、高次の欲求・自己実現欲求の 充足にシフトすることによって生まれた、社会全体の多様化である。それぞれの市民 の多様化した欲求を充足させようとするとき、多様性を統合していくコーディネート 能力が要求される。

 第二は、情報化である。インターネットに代表されるようなネットワーク・メディ アによる情報網の発達は、一つのコミュニケーション・ルートによる上流から下流へ のトップダウン的な情報の流れだけでなく、それぞれの自立と責任において情報を発 信し、それが情報の結節点となって、世論が広がっていくような、情報のボトムアッ プ的な流通を促そうとしている。

 第三は、変化の速さである。技術革新に支えられて、交通・通信・流行のサイクル など、あらゆる分野で社会的速度が増し、こういった変化の速さへの適応が求められ ている。

世界を率いる「情報イノベーター」たち

 筆者らは、こういった、多様性(Variety)、情報化(Informati on)、変化の速さ(Speed)の三つの背景により、産業の発達とそれをバック アップする国家の意思が変化する社会を、これらの頭文字をとり、VIS社会とネー ミングしてみた。

 それでは、VIS社会における意思決定、世論形成は、どのような形で行われるの か、また行われなければならないのか。二つの例をあげてみたい。

 その第一は、インターネットを通して少数の市民が地雷問題の深刻さを訴えていく うちに、全世界の市民運動家が呼応することによって、国際的な地雷禁止の世論が沸 き起こり、カナダを皮切りに、世界の先進諸国が地雷禁止条約を批准した「地雷禁止 キャンペーン」である。もちろん、多様な世論をインターネットを通して集約し、大 きな運動体に発展させて「国家の意思」をつき崩していった背景には、それをリード した数多くのオピニオン・リーダーたちがいる。

 第二は、一九九○年代初頭にヘルシンキ大学の学生が、UNIXをその源流としな がらも、新しい発想からのコンピューターOS(=オペレーション・システム)を考 案し、インターネットを通して発信した。全世界の技術者たちが、ボランティアでこ れに改良を加え、新しいOS、「LINUX」が実現した。企業の論理で市場のシェ アを獲得し、利潤をあげるというような、きわめて二十世紀的な産業の常識に、「L INUX」は風穴をあけたのである。

 こういったVIS社会の中で、VIS化に適応し、情報ネットワークを巧みに利用 しながら、旧来の常識にとらわれずに、世論を共に創り上げていくタイプのネットワ ーク・リーダーを、筆者らは「情報イノベーター」とネーミングした。

「共創社会」の到来を準備する活動こそ

 「情報イノベーター」は、組織に所属していながらも、地雷禁止条約に奔走(ほん そう)したり、LINUXを創り上げた人々と同じように、組織には必ずしも拘束さ れない自由なネットワークを持ち、インターネットをはじめとして、多様化するメデ ィアから、さまざまな情報を収集して、絶えざる自己革新を行い、自らの問題関心に 応じて、情報発信もしている。

 近代社会の中で埋没(まいぼつ)しがちだった「自立と責任」の意識を持ち、ネッ トワークにおけるコミュニケーションを通した、トップダウン的な発想に依らない公 的空間を創り出そうとしている。NPO活動も、このような方向で活性化することが 期待される。

 産業の発達と、それをバックアップする国家の意思に代わり、情報の発達と、それ をバックアップする市民の意思が、新しい社会のあり方を決めていく。ネットワーク によって紡ぎ合わされた情報の共有から、進むべき方向づけがなされていくという意 味では、二十世紀の「競争社会」に代わる二十一世紀の「共創社会」の時代が到来し たともいえよう。

 「情報イノベーター」は、その中で、二十一世紀のネットワーク・リーダーとして の活躍が、さまざまな分野で期待されるのである。 (明治学院大学教授)



略歴  かわかみ・かずひさ 1957年東京生まれ。東京大学卒。同大学院社会学研究科 博士課程単位取得退学。東海大学助教授を経て現職。専門は社会心理学・コミュニケ ーション論。著書に『情報操作のトリック―その歴史と方法』『メディアの進化と権 力』など。先ごろ、共著『情報イノベーター』(講談社現代新書)を上梓。