
(1999年11月27日付)
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「ローカル・メディア」に甘んじてよいのか 金融・資本市場の地球化の波に乗れず |
日本テレビがこのほど米航空・宇宙産業大手で衛星放送会社「ディレクTV」を運営しているヒューズ・エレクトロニクス・コーポレーションと、マルチメディアや通信分野での合弁事業を検討することで合意したと伝えられている。
マスコミでの報道は地味な扱いだったので、見落とした人もいるだろうが、日本のメディアにもようやく外資と協調して「メディア・ビッグバン」を乗り切ろうとする機運が出てきたものとして注目される。
映画「金融腐蝕列島」を観た人は、ブルームバーグ・テレビジョンのアンカーウーマンという脇役が、検察からリークを受けながら、朝日中央銀行の不正事件の真相を暴いていく姿を目の当たりにしたであろう。
若村麻由美の扮する和田美豊というこの人物は、高杉良の原作(『呪縛』角川書店)には、実は存在しない。しかし、ブルームバーグ・テレビジョンそのものは、東京・丸の内に実在している。知る人ぞ知る、金融・ビジネス専門のCSチャンネルである。
ショートカットでアクティブに駆け回る彼女は、主人公の北野浩(役所広司)らとも連絡をとりながら、銀行改革を支援していくわけだが、彼女自身、もともと日本の放送会社にいてその封建性に嫌気がさして“トラバーユ(転職)”したという設定になっている。若村は実際にブルームバーグの現場を見学し、ここでまる二日間ロケも行われた。その体験を彼女は率直にこう述べている。
「日本のテレビのニュースとはやり方がまったく違う。どんな内容を放送するか、企画から始まって、演出、取材、原稿作成、報道と全部自分でやらなくてはならない。ニュースはきっちり正しく伝える、が会社の信条。彼女たちの話をうかがっていると、日本の年功序列システムと違って実力主義。力のある人にはそれなりの地位や給与などが与えられる。やりがいのあるシステムで、私も入りたいと思ったくらい」
一般の人にはなじみが薄いかもしれないが、ブルームバーグは、イギリスのロイターやアメリカのブリッジ・インフォメーション・システムズと並ぶ「情報ベンダー」として、プロの投資家やディーラーなどの市場関係者の間では、つとに知られている。ベンダーとは「売り歩く人」「行商人」の意味だが、すでにれっきとした金融情報メディアとしての地歩を固めている。
専用線のネットワークでつながれた金融情報端末を通じて、市場関連の専門的な情報を提供しており、端末の画面には、投資情報に関連する世界各地で起きた出来事が二十四時間、リアルタイムで流されるだけでなく、金融市場のいろんな指標が一目でわかる。
情報端末に蓄積されたデータの加工も可能で、電子メールとしても使えるうえに、電子取引システムなども組み込まれているから、銀行や証券、商社はもちろん、機関投資家などの間で近年、急速に普及した。
日本にも従来から金融情報メディアはあった。日本経済新聞社系列のQUICKは有名だし、時事通信、共同通信などもそれぞれに歴史と伝統を誇っている。ところが、これらの日本勢は「メディア・ビッグバン」に乗り遅れてしまった。
マネーの世界に国境はないから、金融・資本市場がグローバル化すればするほど、海外情報が必要になる。それにはすでに海外でネットワークを構築している外資系の金融情報端末を利用した方がコスト面でも安い。機能面でも、金融商品の二十四時間電子取引などの分野で外資系の優位は動かぬものとなってしまった。
そもそも日本のマスメディアの経営者の頭の中には、外資系と同じ土俵の上で戦うなどという意識がまるでなかった。世界各地でメディア事業を展開して「世界のメディア王」といわれるルパート・マードックが孫正義と組んで全国朝日放送(テレビ朝日)の株式を取得したとき、親会社の朝日新聞経営陣はあわてふためいて株の買い戻しにかかったが、そのために巨額の授業料を払う結果となり、株主代表訴訟が提起されている。
日本のメディアは日本国内でしか通用しない「ローカル・メディア」になってしまった。これに対し、ロイターやブルームバーグ、ブリッジなどは、ロンドン、ニューヨークはもちろん世界各地に拠点を築き、文字通り「グローバル・メディア」として活動している。
日本メディアの端末は、すでに頭打ちどころか減少の一途をたどっている。金融機関の合併や支店の統廃合が進めば、ユーザーがさらに減るのは目に見えている。国際化に対応した「メディア・ビッグバン」を急がなくてはならないときである。(立命館大学教授)
略歴 たかはし・ふみとし 1937年長野県生まれ。東京大学文学部卒。61年朝日新聞社に入社し、ロンドン特派員、西部本社経済部長、東京本社論説委員、論説副主幹を歴任。94年の退社後、米ワシントン大学客員研究員を経て現職。専攻は情報メディア政策論。著書に『経済報道』『競争政策・消費税・PL法』『財テク国家の終焉』など多数。先ごろ、『メディア資本主義』(講談社現代新書)を上梓。