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寄稿論文

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 北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)とどう向き合うか

長島昭久
米外交問題評議会アジア安全保障研究員

(1999年8月21日付)




ワシントンにおける「忍耐の限界」の兆し

時機が満ちてきた日朝二国間交渉




「現状維持政策」への不満が噴出!

 「現状維持政策では、もはや現状を維持できない」
 共和党政権で国務次官補を務めたこともある参加者の一人が声を荒げた。米政府の朝鮮 半島政策に大きな影響を与えてきた外交問題評議会主宰の「朝鮮半島問題タスク・フォー ス(特別委員会)」における議論の中で、テポドン・ミサイルの再発射問題に話が及んだ 時のことである。
 この指摘の根拠は大きく三つある。
 第一に、北朝鮮の核開発をストップした一九九四年の米朝枠組み合意では、新たな脅威 となっている北朝鮮によるミサイル開発は止められない。
 第二に、北朝鮮が実際にミサイル実験に踏み切れば、日本、米国、韓国の民主主義国家 は、国民からの疑問の声や議会の圧力に抗し切れず、もはや現状の「関与政策」を継続で きなくなるだろう。
 第三に、いまだに完全には払拭(ふっしょく)されない核開発疑惑と併せ、米国領土の 一部をも射程内に収める潜在力を持った長距離弾道ミサイルの開発は、北朝鮮が米韓連合 軍に対する通常戦力における圧倒的な劣勢を一挙に挽回(ばんかい)する能力を保有する ことを意味する。
 実際、戦争一歩手前まで行った九四年の再現を嫌う米政府は、度重なる北朝鮮の挑発行 動にもかかわらず一貫して、「枠組み合意」で建設が決まった二基の軽水炉への支援と人 道目的の食糧援助は堅持してきたのである。
 その前提は、(1)北朝鮮の体制崩壊は差し迫っている、(2)北朝鮮は関与政策によ って外部世界への依存を高める、というものであった。
 しかし、冒頭の参加者が提起した懸念は、実はこの二つの前提そのものが疑わしくなっ たのではないか、すなわち、北朝鮮の体制はそう簡単に崩壊しないし、外部への依存が徐 々に高まることは否定しないが、実態は、その間にできる限り関与政策を利用して、西側 から食糧、エネルギー、軍事技術、そして外貨を稼ぐだけ稼ごうというものではないのか 、ということを示唆しているのである。

エネルギー、食料援助は堅持すべき

 そして、その結果、我々が直面する事態は、北朝鮮の核や生物化学弾頭を搭載したミサ イルによって彼我の戦略バランスがひっくり返され、たとえば、北朝鮮の「電撃的な南進 作戦」を中断するための外交交渉で、米韓側が圧倒的に不利な立場に追い込まれるのでは ないかという訳である。
 しかし、このような深刻な懸念にもかかわらず、外交問題評議会が最近発表したタスク ・フォース報告書は、次のように関与政策の維持を訴えた。
 すなわち、「基本的に、北朝鮮が我々に好ましいかたちで変化することを期待するのは 困難である。しかし、テポドン再発射をもって関与政策を放棄することも時期尚早である 。したがって、朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)による軽水炉事業と食糧援助は あくまで堅持すべきだ。要は、(我々が彼らの行動に反応するのではなく)いかにして北 朝鮮に対し、我々の政策に反応させるかだ。そのためには、不測の事態に備えるために朝 鮮半島周辺の抑止力を強化しつつ、北朝鮮に対し現状からの『出口』を選択させるのであ る。テポドン再発射を行った場合には間違いなく経済制裁が強化されること、あるいは、 逆にそれを断念した場合には経済的なインセンティヴ(報奨)が提供されるであろうこと 、である」
 その上で、韓国や日本に対してはディス・インセンティヴ(報復)の一環として経済制 裁強化の具体的提案を示したのである。米国はすでに資産凍結を含め北朝鮮に対してはあ りとあらゆる経済制裁を課しているが、日本でもようやく「ヒト、モノ、カネの制裁強化 」(高村正彦外相)をめぐる議論が始まった。
 しかし、同時に、今回の外交問題評議会提言をめぐって注目する必要があるのは、ワシ ントンにおける北朝鮮政策に対する「忍耐の限界」の兆候であろう。冒頭で触れたように 、提言に対し、とくに共和党系のタスク・フォース参加者からの拒否反応が強く出された 。これは、次期米政権の行方とも絡めて看過できないトレンド(潮流)といえよう。

断片的な感否めない日本外交

 ワシントンはすでに民間シンクタンクの研究者のレヴェルまで、二〇〇〇年の大統領選 挙モードに入ってきている。現状維持を標榜(ひょうぼう)するクリントン・ゴア政権に 対し、共和党の大統領候補や議会は現状維持政策の転換を強く求めていくことになろう。 しかも、この傾向は、共和党主導の米議会のみならず、日本や韓国における保守派の間で かなり共有された感覚でもある。
 北朝鮮が、このような米国を初めとするこの三つの民主国家に見られる「忍耐の限界」 の兆候を理解せず、テポドン再発射に踏み切れば、現在、日米韓で進められている関与政 策が放棄される可能性もある。
 そうなれば、結局、国際関係の原則に立ちかえって「セルフ・ヘルプ」、つまり、各国 にどれだけ北朝鮮との交渉能力があるかでその国の安全保障が決まることになる。そう考 えてくると、日本の対北朝鮮外交はいかにも貧弱である。
 実際、九一年の「金丸訪朝」以来、日本政府が本気で日朝関係正常化に取り組んだ形跡 はない。米国が昨年末にウィリアム・ペリー前国防長官を政策調整官に据えて、政策見直 しを進め、議会指導者とも緊密な協議を行い、北朝鮮へ乗り込んで政治・軍事の中枢と直 接交渉を行ったのに比して日本の対応は断片的な感が否めない。
 日本もこの問題が「戦後の総決算」(川島裕外務次官)と考えているのであれば、外務 省のチャンネルで細々とやるのではなく、防衛庁に新設された情報本部や警察・公安関係 の総合的な情報力を駆使し、関係省庁を束(たば)ねるかたちで、できれば元首相クラス の「朝鮮問題特使」に政策を統轄(とうかつ)させる体制をつくるべきだろう。
 その上で、すべての問題――戦後補償から拉致(らち)問題、日本人妻の訪問、工作船 事件など――をテーブルの上に載せて本格的な包括交渉に臨むべきだ。今月十日に北朝鮮 が出した異例の「対日政策三原則」声明は、二国間交渉への時機が満ちていることを物語 っている。
(米外交問題評議会アジア安全保障研究員)


略歴  ながしま・あきひさ 1962年、横浜市生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程在学中 に衆議院議員公設秘書に転じ、ヴァンダービルト大学日米研究協力センター客員研究員な どを経て、97年ジョンズ・ホプキンス大学高等国際関係大学院を修了の後、現職。近著( 共著)に『日米同盟――米国の戦略』(剄草書房)。第3回読売論壇新人賞最優秀賞を受 賞。