

(1999年2月27日付)
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マスコミは消費者の信用に応じる責任を負え 権力の介入を防ぐためにも自主規制システムを |
メディアによる市民の人権侵害、プライバシー侵害をいかに救済するか、またメディアはいかに社会的責任を果たすべきか、こうした問題をめぐって、最近、マスコミ界をはじめマスコミ研究者の間でもしばしば議論が行われている。
しかし、新聞や雑誌等が掲載した広告内容を信じて商品を購入した消費者が、メディアによる広告内容の調査確認が不十分であったため、大きな損害を被(こうむ)る結果となった場合、広告媒体(ばいたい)社も一定の責任を果たすべきではないだろうか。にもかかわらず、現状では欠陥商品を製造したメーカーの責任は問われても広告を掲載したメディアには、道義的責任こそあれ、法的責任がないのは、どうしたことか。
このため、被害者がメディアを相手取って訴えても、メディア側はなんら責任を負わぬばかりか「消費者が商品を購入する際、事前に広告内容をチェックすべきであったのではないか」と、もっぱら責任を消費者に転嫁(てんか)する。結局、消費者には何の法的な救済措置(そち)もないとの理由で泣き寝入りせざるを得ないのが少なくともこれまでのわが国の実態だ。そこでこうした問題について考えてみたい。
メディア側の言い分は、「広告主に対して一定のスペースを有料で提供してきたにすぎない。広告内容のチェックを怠るわけではないが、事前の調査確認といっても、能力的にも時間的にも限界がある」というのである。したがって広告内容を信ずるかどうかの最終判断は、消費者側の問題で、メディアが責任を負う義務はない、との論法だ。
確かに広告を見てその商品を買うか買わないかを決めるのは、消費者であり、メディアではない。だが、だからといってメディアは全く知らぬ存ぜぬですむだろうか。近ごろのように広告が氾濫(はんらん)している情報化社会にあって、消費者もより賢くならなければならない。そのために、正確な商品知識をより多く身につけるための勉強が必要だろう。
しかし、そうはいうものの、ごく一般の消費者に対し、マスコミ以上の広告内容に対する調査確認能力を一方的に要求することは、酷な話ではないか。多くの消費者は、もちろん広告内容をみたうえでその商品を買うか買わないか、を決めるが、最終判断の決め手になるのは、広告を掲載しているメディアがいかなるメディアかということが多い。
たとえ同じ広告であっても、掲載メディアいかんで、消費者はその広告の内容を信用するしないを決める。より分かりやすく言えば、「○○紙に掲載されている広告だから、まさか違法広告ということはあるまい」と、一般の消費者は考え、消費行動に走るのだ。
実際、ある有力雑誌に長期にわたり掲載された金融商品広告が、出資法違反の内容であったにもかかわらず、広告媒体の知名度、社会的信用度の高さゆえに広告内容そのものを信じて出資し、多額の損害を受け、被害者が広告媒体社を相手に、民事訴訟を起こして現在、係争中のケースがある。
出資法違反の罪に問われた広告主は、当然、刑事上有罪となったものの、もはや破産状態にあるため、被害者にはかつての預金は全く返済されない。なかには、退職金の一部を必要に迫られ、少しでも高利運用できればと願って出資してしまった気の毒なケースもあるという。
この事件、広告媒体社は前述のように「われわれには法的になんら責任はない」としてこれまで突っぱねてきているが、今日の時代状況を考えると、そうした考えは果たして通用するものだろうか。
多くのマスコミ人が、市民を人権やプライバシーの侵害から守ろうと、言論、報道の自由を守りながら市民の要求にこたえるべく努力しつつあることは評価されるべきであろう。
広告掲載についても、大手マスコミ機関が最近、独自の広告審査基準を設けてかなり厳格な社内審査を実施していることは事実だ。しかし、一部マスコミ人の間には、記事と広告は別との考えがある。果たしてそう簡単に割り切れるだろうか。
今や、広告も「情報」である。その限りでは報道記事と変わらないものもあり得る。そんな時代だけに、どんな広告を掲載しているかでその広告媒体の評価なり、品格が問われる。マスコミ人は少なくとも、こんな意識を持つべきであろう。
広告の自由、広告経済活動の自由が保障されなければならないことはいうまでもない。だが、消費者も保護されなければならないのは当然だ。
そのために例えば、わが国でも英国にみられる広告苦情委員会のような、市民とメディアによる自主的な組織を設け、広告媒体がみずから市民の苦情解決に立ちむかうのもひとつの対応策であろう。そうすれば、メディアも政府の介入を防げるのではないだろうか。(久留米大学、東京工学院専門学校兼務講師)
略歴 いまさと・じん 1934年、東京都生まれ。早稲田大学卒。時事通信社に入社し、バンコク特派員、編集委員、「時事解説」編集長、資料室長を経て、90年退社。編著に『先端技術の基礎用語』、著書に『マスコミ・情報の考現学入門』ほか。