

(1998年12月12日付)
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安心と自信と自由を保障する社会を 日本の教育制度は子どもたちの発達をゆがめている |
子どもの権利条約は、子どもの人間としての尊厳を尊重し、「安心と自信と自由」を保障しあえるような環境の実現を謳(うた)っている。しかし、条約の批准(ひじゅん)国である日本の現状には課題が多い。このほど来日した国連子どもの権利委員会(CRC)委員でイスラエル出身の法律家、ジュディス・カープ氏に話を聞いた。(野山智章記者)
――子どもの権利条約の日本における実施状況をどう見るか。まだまだ批准して日が浅いため十分に浸透しているとは言えない状況にある。日本の状況で評価できる点、課題が残る点を聞かせてください。
一つは、日本政府が条約の項目のいくつかを留保している点です。そんな留保は必要ないと私どもは考えています。理想的には、完全に条約を受け入れることを希望します。
二つ目は、条約が、裁判所の司法手続きに援用されないことです。裁判所の中で、日本政府のとる法律の一環としてこの条約をとらえて欲しかったと思います。具体例をご紹介すると婚外子の問題ですが、差別なく相続権を有することを確立してもらいたい。
更に、日本における子どもの人権専門委員が独立的な権限を持って確立されるべきです。子どもの権利が侵害されていないかを、きちんとモニター(監視)できるような制度になっていくべきだと思います。
最も重要な勧告は、この条約を政党や自治体、その他、子どもたちにかかわる大人の中に普及させていくということです。また、子どもたち自身がこの条約を理解するということが大切だと思います。
特に少数者の子どもを差別しないということ、すなわち在日韓国・朝鮮人、アイヌの子どもたち、障害を持った子どもたち、などを差別しないということが重要です。
また、NGO(非政府組織)を、政府がよりよく活用していく方法に関する勧告もありました。
――現在、日本政府は少年法の改訂を検討している。伝えられるところの改定案は、少年犯罪に対する「厳罰主義」の傾向を強めている。例えば、成人同様の厳しい刑事司法の対象となる年齢を現行の十六歳から十四歳に引き下げることや、新たに少年法上の審理に検察官を導入することである。このような動きをどう見るか。
大変、残念なことだと思います。この問題の正攻法は、子どもたちを力づけていくことだと思います。犯罪者という汚名を着せるということではないと思います。もちろん、深刻な犯罪を犯した子どもであれば当然、罰する必要があると思います。
しかし、刑事制度としても建設的でより教育的な方法も考慮すべきです。例えば、子どもの善の部分を引き出す意味のある罰則の実施です。自分のやった間違いを自覚させるような制度が必要だと思います。
子どもがいったん汚名を着せられてしまうと、その子どもが社会の中で、今後、社会生活を送ることが妨げられてしまう。なかなか、仕事にもつけない、就職もできない、市民活動ができないわけです。
殺人のような最も憎むべき事件を犯した少年に対し刑事的な厳罰を与えるにしても、特別な裁判所の管轄として判断していくべきと思います。子どもの発達ということを理解し、心理を理解する、そういう裁判所が扱うべきです。ほかに代替案がないときのみ、子どもに対して厳しい罰を施していく方が、受け入れやすいと思います。
――マスコミ報道が子どもの人権を侵す場合が多々ある。例えば、昨年、神戸で起こった連続殺人事件では一部メディアが少年法の規定に反して実名と顔写真を報道した。このような動きをどう見るか。
来日して神戸事件について聞きました。“事件を起こしたのは自分が透明な存在だから”と言っているとも……。
逮捕された子どもの顔写真やその他の情報ですが、勧告の中では、プライバシーの保護があげられます。つまり、これは、司法制度の中でも、子どもの実名を記載しないことも重要なことだと思います。
イスラエルの例を紹介したいのですが、実名の公表は、子どもが加害者であった場合はもちろん禁止、親が加害者であった場合も禁止、親が子どもの面倒をみられなくなったり、養子になるような親権の放棄の場合も禁止、被害者の実名報道も禁止です。
メディアの役割も大変重要だと思います。条約の第十七条に、子ども自身が広範囲なメディアから情報を収集できるということが記載されています。もちろん条約自体は政府の義務であり、メディアは独立した機関ですから、政府がメディアに義務づけることはできません。
しかし、メディア自身が倫理というものを確立する必要があります。社会の責任ある一員としてジャーナリストも倫理規範を確立する必要があります。ジャーナリストが、時として自分たちのやっていることがいかに子どもに有害かを理解するためにも、ひろく条約の認知を広げていくことが肝要です。
キーワード
「子どもの権利に関する条約」が採択されたのは一九八九年十一月二十日。日本が批准したのは九四年(国連で百六十八番目)。権利の主体として子どもを位置づけ、彼らが宗教や信念を表明する自由や私生活、住居、通信について、不法に干渉されない権利などを宣言している。
子どもの権利条約で認められた権利の実施に当たり、締約国政府が達成した進歩を審査するための、実施監視機関として設立された。委員は出身国やその政府の代表として活動するのではなく、世界の子どもたちのみに責任を有する。
国連子どもの権利委員会は、「日本の教育制度は、極度に競争的で、過度のストレスと不登校を生み出し、子どもたちの精神的・肉体的発達をゆがめている」旨の懸念を示し、そのような制度を「改めるよう闘いなさい」との勧告を出した。
取材メモ
六日午前、都内ホテルで行ったインタビューには創価学会婦人平和委員会の小熊則子委員長も同席。日本政府が国連・子どもの権利委員会に提出した報告書(九六年五月)に対するカウンター・リポート(代替報告書)としてまとめた婦人平和委員会編の英文資料を手渡した。
これは、創価学会が「子どもの人権展」などを通じて、人権意識の啓発運動に取り組んできた実績を踏まえ考察したもの。カープ氏は「さまざまな視点からの提言に満つ、カウンター・リポートは人権のために有効で、とても大事です」と、高く評価していた。