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寄稿論文

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地震情報と防災

廣井 脩
東京大学社会情報研究所教授

(1998年11月14日付)




住民に理解できる確率の高い予測を

阪神・淡路大震災の教訓から余震や活断層情報が発表されているが……


津波予報区が66に

 悪夢のようなあの阪神・淡路(あわじ)大震災からすでに四年が経過しようとしているが、震災をきっかけとして、さまざまな地震関連情報が改定されたり、新たに導入されつつある。

 震災の教訓から、科学的知見を動員してよりきめ細かい地震情報を発表し、これを防災機関や住民の防災(ぼうさい)対策に活用してもらおうという趣旨であるが、すでに九六年十月から気象庁が発表する「震度」が大幅に変わって、震度七が速報されるようになり、また被害が出る可能性のある震度五と震度六が、それぞれ震度五弱、震度五強、震度六弱、震度六強と細分化されることになった。

 来年四月からは、津波(つなみ)予報に「量的予報」が導入されることも決まっており、今後は、津浪予報区が従来の十八から六十六に増えるとともに、津波警報や津波注意報の直後に、予想される津波の高さが数字で発表されるようになる。

 それ以外にも、余震(よしん)情報に確率(かくりつ)評価が導入されたり、阪神・淡路大震災で注目を浴びた活断層(かつだんそう)について、その履歴を調べ将来の活動を予測しようという計画も行われている。こうした傾向を簡潔に表現すれば、「定量化」と「細分化」ということになるが、この小論では、以下、余震情報と活断層情報の二つについて触れていきたい。

 まず余震情報である。いままでも大きな地震の後、地震予知連絡会などが余震の見通しについて発表してきたが、「今後マグニチュード六以上の余震が起こる危険がある」という定性表現にとどまっていた。今後は、被害をともなう大きな地震の後、余震の可能性を「今後○日間にマグニチュード六以上の余震が起こる危険は○○%」というように確率で発表することになった。

 もしこの余震確率が高ければ、本震で亀裂が入った山やがけの点検、土砂崩れの危険がある道路の復旧、傾きかけた家屋への立ち入りなどはしばらく見合わせる必要がある、ぜひこの確率を防災対策に役立ててほしいというわけである。

 しかし問題は、こういう確率情報が発表されたとき、防災機関や住民がこれをどう受け取るかということである。たとえば、マグニチュード六程度の余震の起こる確率は三〇%という情報が発表されたとしても、余震が起こる可能性が高いのか低いのか、また一体われわれはどうすればいいのか、その情報がなければ防災対策に結びつけることは困難であろう。

 現に、九月三日に発生した岩手県直下の地震の一七時間後、気象庁ははじめて「今後三日以内に、マグニチュード五・〇程度の余震が発生する確率は二〇%程度である」という情報を発表した。筆者が担当者に聞いた限りではかなりの危機感をもって発表したということであるが、しかし、現地ではこの情報が何を意味するのかほとんど理解できず、防災対策に活用することができなかったのである。

 余震確率の発表とともに、その確率が高いのか低いのか、そして余震に警戒してほしいのか、注意してほしいのか、そういう定性表現を付け加えなければ防災には結びつかない。このへんが、余震情報の今後の課題だと筆者は考えている。 

土地利用や町づくりに役立てよう

 次に、活断層の活動予測である。近い将来活動する可能性のある活断層の周辺には、公共施設や病院、学校などを建てないといった土地利用や町づくりにこの予測を役立ててほしいという観点から、政府の地震調査委員会は、日本列島に存在する九十八の活断層の将来の活動を予測する作業を続けており、現在までに、糸魚川―静岡構造線活断層系、神縄・国府津―松田断層帯、そして富士川河口断層帯の三つの調査結果が発表されている。

 しかし、その内容は前の二つが、「現在を含む今後数百年以内にマグニチュード八程度の地震が発生する可能性が高い(ある)」、三つ目が「今後数百年以内の比較的近い将来にマグニチュード八程度の地震が発生する可能性がある」というものであった。

 これらはたしかに定量評価には違いないが、「現在を含む今後数百年以内」などという漠然とした予測が、はたして、土地利用や町づくりに活用できるのだろうか。自治体やライフライン機関の防災関係者にたずねたところでは、せいぜい五十年、長くて百年くらいの予測でなければ具体的な対応はおそらくできないだろう、ということであった。

 そこで現在、地震調査委員会は活断層の活動評価を「今後三十年(五十年、百年)以内に地震が起こる可能性は○○%」という確率表現で行う方向を模索している。いずれにしても、活断層の活動予測をどのようなかたちで公表し、これを防災と結びつけるかということは、きわめて重要な課題である。

 ここで触れた余震情報や活断層情報は震災の教訓をふまえて発表されるようになった新しい地震情報であるが、まだそれらの情報はストレートに防災に直結するレベルには至っていないのである。こうした現状をふまえ、なおかつ、現段階でそれを防災対策にどう生かすべきなのか、いまこのことが問われている。

 (東京大学社会情報研究所教授)



略歴 ひろい・おさむ  1946年群馬県生まれ。東京大学大学院博士課程修了。東京大学新聞研究所助教授を経て、92年から現職。地域安全学会理事、自然災害学会理事。著書に『災害情報論』『災害報道の社会心理』『うわさと誤報の社会心理』ほか多数。