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寄稿論文

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映像ジャーナリズムと子どもたち

清水 英夫
青山学院大学名誉教授

(1998年10月10日付)




必要なのは市民による番組の監視

課題は保護と表現の自由の両立


映倫とPG12

 映倫管理委員会(映倫)は、今年の五月から新しいレイティング(映倫による映画の等級分け)制度を実施している。映画の格付けを、従来の三段階から四段階に改めるとともに、PG12というレイティングを新たに採用した。

 PGとはペアレンタル・ガイダンスの略であるが、PG12は、十二歳未満の子どもがこの映画の上映館に入場するときは、親など保護者の付添いが望ましい、という指定である(入場禁止ではない)。

 PG制度は、すでに多くの欧米諸国で実施されているが、たとえばアメリカでは、有名な「E.T.」をはじめ、「ジュラシック・パーク」や「ジョーズ」、「スター・ウォーズ」でさえ、PGの対象になっている。いささか神経質のきらいがないでもないが、暴力や残酷シーンに厳しい状況が分かるであろう。

 これらの映画は、日本ではみな“一般”指定で、子どもが独りでも入場できるし、テレビでも制限なく放映されている。しかし、これまで“一般”とされていた映画でも、暴力や恐怖場面が多く、何らかの制限を設けるべきだ、という意見が映画関係者のあいだで高まり、今回のPG12の採用になった。

 ところで、この五か月ほどのあいだに、映倫でPG12の指定を受けた映画は次の五本であるが、いずれも外国のものである。「クライム・タイム」(イギリス)「ガンモ」(アメリカ)「ロリータ」(アメリカ)「ヴァンパイア 最後の聖戦」(アメリカ)「闇を見つめる瞳」(アメリカ)

性・暴力の影響力

 これらの映画は、描写の残酷性や暴力性が強く、十二歳以下(小学生以下)の子どもが単独で見るのは不適当と判断された(「ロリータ」は主題の不適当性)。映倫といえば、ポルノなどセックスシーンに厳しい、という印象があるが、最近はむしろ暴力(ヴァイオレンス)のほうに関心が向けられている。

 性描写や暴力描写が、子どもに与える影響については、海外では多くの研究・調査が行われている。最近では、それらの研究・調査もきめが細かくなっただけでなく、ジェンダー(性役割)や人種差別その他の描写まで、その対象が広がっている。

 しかし、テレビを含め映像描写が、子どもにどの程度、いかなる影響を及ぼすかについては諸説があり、一定の結論はでていない。とはいえ、過度の性的、暴力的表現が、何らかの悪影響を与える可能性があること、低年齢や継続的視聴ほど危険が大きいことなどについて、これを否定する見解は少ない。

 継続的な暴力視聴が、必ずしも暴力行動の引き金になるわけではないが、暴力に対する無関心、潜在的な暴力恐怖心を培(つちか)う要素になることを指摘する研究者もいる。また、佐々木輝美・独協大学助教授によれば、暴力視聴と暴力行動との関連を調査したアメリカの七三の研究のうち、七六・七%にあたる五六までが関連ありとしている、という。

 しかし一方でまた、アメリカでも日本でも、表現の自由は最も大切な憲法的権利として保障されている。すなわち、子どもの保護と表現の自由という二つの価値を、いかに両立させるかは、自由主義社会が解決しなければならない難問なのである。

Vチップ問題

 いま注目を浴びているVチップ問題も、自由主義社会ならばこその論議である。VチップのVはヴァイオレンスを意味している。映画の場合は、映画館の入口で入場制限できるが、テレビは違う。そこで、子どもたちが大人向けの番組を視聴できないように、受像機に内蔵させよう、というのがVチップであり、アメリカではすでに実施されている。

 Vチップを一般化させるためには、法律で強制するのが手っ取り早い。しかし、それは放送の自由を制限するだけでなく、実際上どれだけ効果があるのか、疑問視する向きも多い。本当に必要なことは、市民による番組の監視と、その声をテレビ局に伝えるチャンネルを確立することにあるのではないか。

 その意味で、第三者(有識者)を交えた機関である民間放送連盟の放送番組調査会が、当面テレビ局のとるべき自主的措置として行った次の二つの提案は、当然のことながら十分傾聴に値する、といえよう。

 一、性描写、暴力表現およびわいせつな会話描写を含む青少年に適しないと思われる番組は、放送時間に十分配慮して放送する。

 二、青少年の知識や理解力を高め、情操を豊かにする番組を、各放送事業者は少なくとも週三時間放送する。(青山学院大学名誉教授)



(主な参考文献)佐々木輝美『メディアと暴力』(剄草書房) 小平さち子「映像描写をめぐる海外の調査研究最新動向」(NHK「放送研究と調査」九八年八号)。



略歴 しみず・ひでお  一九二二年東京生まれ。東京大学法学部卒業。日本評論社出版部長、青山学院大学法学部長、神奈川大学経営学部教授等を歴任。主な著書に『情報公開』『マスコミの倫理学』『テレビと権力』『出版学と出版の自由』ほか多数。現在、映倫委員長、放送と人権等権利に関する委員会委員長CS放送・成人番組倫理諮問委員会委員長、放送批評懇談会会長ほか。